昼食難民の新書生活

(新宿・秋葉原・芝浦など各地でのランチと読書)

『家族の悪知恵―身もフタもないけど役に立つ49のヒント』西原理恵子(文春新書969)

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『家族の悪知恵―身もフタもないけど役に立つ49のヒント西原理恵子(文春新書969)



ベストセラーになった前著『生きる悪知恵』の第2弾。

サイバラが、新聞や雑誌の人生相談風に家族にまつわる49の相談に、快刀乱麻ぶりをみせている。といっても、本書は前書と同様に雑誌等の連載をまとめたものではなく、いかにもありそうな相談はすべて架空のものだ。

以前、雑誌に寄せられる読者からの人生相談には使えるものが少ないので、編集者が創作していることが多い、という話を聞いたことがある。であれば、多くの雑誌と同様に相談は編集者の作文であっても、回答が面白ければ良いことになる。

【目次】

第1章 「困った夫&妻」編—夫婦は他人の始まりだから
第2章 「子育て」編—ならぬ堪忍するが堪忍
第3章 「家族もいろいろ」編—普通じゃなくてもいいじゃない
第4章 「人生の選択」編—ごちゃごちゃ言うよりやってみなはれ
第5章 「親兄弟が面倒くさい」編—バカとハサミは使いよう
特別企画 母子座談会「西原家の悪知恵」


本書は、前書と違って「結論」は警句のような切れ味はイマイチだけど、「相談」に工夫があって面白いし、サイバラの語りは前書に増して奔放だけど核心をついた回答が面白い。

例えば、「娘がウソをつく」という相談には、「子供は北朝鮮」と思いましょう、と答えている。

相手は北朝鮮なんだから、正直言ったって通じないし、ウソをつくのが当たり前。絶対最後に「知らない」「そんな約束していない」って言いだすので、そこをどうやってネゴシエイトするかですね。(p.58)

前著に、使えない部下を「ネジだと思えば腹も立たない」という惹句があったが、子供は理屈の通じない「北朝鮮」だと理解すれば、いくら腹を立てても解決にはならないと得心できる。

「家庭を現状維持しつつ、ほかの男性に身体を許すのはありですか?」という不倫の相談には、夫とは“家族”になったらいつまでも“素敵な恋人”でいられると思うこと自体がお花畑で、亡くなった夫の鴨ちゃん(戦場カメラマンの鴨志田穣)がよそに彼女ができた時にも全然腹立たなかった、と太っ腹だったところを見せている。

女性はホントにダンナさんも私も清く正しく、家庭は隠しごとのない――的な真面目な方が多くて。その相手が浮気をすると「死にたい」「殺したい」ってことになっちゃう。私らなんかは「なんでそれくらいで?」「ちょちょっと洗えばまた使えるじゃん」って思うんだけど(笑)。(p.100)

すごいなあ。

サイバラにとっての結婚は、「子供を中学とか高校まで行かせるためだけの契約」だからだ。だから、夫婦が互いに不倫してもかまわないことになる。

地元でも有名なバカ高校に通う女子高校生の「低学歴の世界から抜け出したい」という相談には、

同じチンコなら都会で仕事のできる男のチンコをくわえろ。

とアドバイスしている。

やりたいことがあるなら誰かに弟子入りするのでも何でもいいし、とにかく取っかかりを見つけてください。(…)そこからどうしてものし上がりたかったら、せっかく若い女のコなので、その先生とヤっちゃってください。そうすると、すべてのノウハウを教えてもらえますんで。(p.130)

そして、時間の無駄だから、劇団員とかカメラマンの卵のような夢を一緒に追いかける彼氏は持たないこと、と釘を刺している。

巻末に、高2の息子「ガンジ」と中2の娘「ひよ」との座談会が掲載されている。自由で妙に大人びているのが、いかにもサイバラの子供たちらしいが、その子供たちの将来の希望を尋ねられて、サイバラは「勤め人は、やめたほうがいい」と答えている。「日本人は頑張りすぎ。みんな“一人ブラック企業”」だからだ。

子どものころからぼんやりしていたためか、就職した時には上司や先輩が顧客の理不尽な要求にも完璧に応えようとしたり、納期の帳尻さえ合えば良いのにすべて既定のスケジュールで仕事を進めようとするのを見てカルチャー・ショックを受けたことを思い出した。

全員が目を三角にして必死に働く姿は、偏執狂的とさえ思えたものだ。確かに日本人の働き方は頑張りすぎだし、一人ブラック企業なのだと思う。

最後には、娘にノルマとして「離婚三回、家5軒ね」というジョークを飛ばしている。サイバラの母が離婚2回で家を2軒建て、サイバラが離婚1回で家を3軒建てたから、その合計だ。中2の娘に言うべき言葉ではないような気がするが、サイバラ家ではこれでいいのだろう。



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肉そば@なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。

そば処 港屋」のパクリ店といわれる東新宿にある「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。」へ。

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店名がおかしい。港屋のパクリならば「なぜ蕎麦つゆにラー油を入れるのか。」だろう。もしかしたら、本当にラー油を蕎麦に練り込んでいるのか。

まさか。

店名に「。」が付いているのは、池袋と秋葉原にある「カレーは飲み物。」の系列店だからしい。

12時すぎに入店すると、カウンター9席、2人がけテーブル2卓の店内はほぼ満席だった。

入り口左側に券売機がある。

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肉そば、鶏そば、とろろ肉そば、とろろ鶏そばは、大・中・小が同じ料金。

「肉そば(中)790円」の食券を購入して厨房の女性に渡し、唯一空いていたテーブル席に腰を下ろして待つ。

5分ほどで「テーブルの肉そばの方」と厨房の女性に呼ばれ、料理の載ったお盆を手渡された。

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厚手の丼に蕎麦、肉、ネギ、ゴマ、海苔の順に盛ってある。冷たい蕎麦つゆも厚手の小丼入り。海苔が焼き海苔みたいな黄緑色だ。

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蕎麦がぶっとい。そして、ものすごくコシがある。

もちろん蕎麦にラー油は練り込まれていない。店名を考えたのは、日本語が不自由な人らしい。

蕎麦つゆは、甘さ控えめでちょっとしょっぱいけど、濃い味付けがぶっとい蕎麦によく合っている。

薄切りの牛肉は、拍子抜けするほど薄味だった。でも、蕎麦つゆが濃いのでちょうどよい。

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卓上には、天玉と生卵に加え、ラー油と一味唐辛子があって、味を調節できるようになっている。

途中で、天玉や生玉子、ラー油を追加して、味変しながら食べ終えた。玉子は、蕎麦つゆではなく蕎麦に混ぜたほうが美味しい、というのを後で思い出した。残念。

券売機横の大きな保温器から、蕎麦つゆに白い蕎麦湯を加え、魚粉(肥料や飼料じゃないんだから「削り粉」だろう)をかけて飲み干した。香ばしくて美味しい。


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◆希望支払金額:790円(ぶっとくてコシの強い蕎麦が美味しい)
◆費用対効果度:100%(790円/780円)

なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。
住所:東京都新宿区大久保1-3-22 ヴァンヴェール新宿
営業時間:11:00~ 17:30~
定休日:年中無休

※東京メトロ副都心線東新宿駅のB1出入り口から地上に出て、左に50メートルほど北上した左側に店はある。


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『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問』岡本裕一郎(ちくま新書 1045)

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『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問岡本裕一郎(ちくま新書 1045)


本書は75問の思考実験を使って、 哲学的問題にアプローチしている。

だから、本書のタイトルは「世界と哲学をつなぐ思考実験75問」にすべきだったのではないだろうか。

著者は、玉川大学教授の哲学者。本書では、自己・他者・倫理・社会の4つのテーマを抽象的な理論ではなく、思考実験を使って具体例でわかりやすく解説している。

【目次】

Ⅰ 自己
 第1章 私はなぜ「私」だと言い切れるのか?
 第2章 私の夢こそが現実ではないのか?
Ⅱ 他者
 第3章 あなたがいなければ、私はいないも同然なのか?
 第4章 他人の心が分からなくて何が問題なのか?
Ⅲ 倫理
 第5章 ウソをつかないことは本当に正しいのか?
 第6章 善悪は何で判断すればよいのか?
Ⅳ 社会
 第7章 人間の未来はどこへ向かうのか?
 第8章 近代の終わりはディストピアなのか?


著者は、哲学の非常勤講師として短期大学で教え始めたときに、抽象的な概念や論理ばかりの講義では学生たちの興味を引かないことに悩んだ。そこで、「具体的に教えてほしい」という学生の声に応えるために「思考実験」を使って説明することにしたという。

「思考実験」はエルンスト・マッハが注目した概念で「思考の中で実験する」方法だ。

マイケル・サンデルの「白熱教室」以来、哲学や倫理学での「思考実験」も馴染み深いものとなった。本書では有名な思考実験だけでなく、小説や映画などさまざまな題材から、いわゆる思考実験の形になっていないものも採り上げている。

面白かったのは「Ⅲ 倫理」。

まず、カントの「ウソ」論文(『人間愛からのウソ』1797年)。

人殺しが私の友人を追いかけている。友人は私の家に逃げ込んできて、かくまってほしいと依頼する。私が承知したあと、人殺しが私の家にやってきて、その友人が来ていないか私に問い尋ねたとしよう。そのとき、私はどう答えるべきであろうか?

この問題に対して、カントは、たとえ結果がどうであろうと「ウソはつくべきではない」と主張した。これに対して、H・J・ベイトソンは「友人の命を救う」という状況では「ウソをつくな」という道徳的な義務は留保しなくてはならないと批判した。

一方、マイケル・サンデルは、人殺しに「友人はここにはいない」とウソをつくのではなく「1週間前に見かけた」と答えるという、真実ではあるが誤解を招く表現を使うことを提案した。しかし、人殺しが「もう一度聞くが、今この家にお前の友人はいるのか?」と問いただされたとき、サンデルの解決法は役立たないと著者はいう。

さらに著者は、同じストーリーで友人を政府に批判的な活動をしている「反逆者」、人殺しを「秘密警察」に設定する。秘密警察が家にやってきて「反逆者をかくまっていないか?」と尋ねたとき「いない」とウソをついても、秘密警察は納得しないだろうとしている。

この思考実験でカントが問題にしたのは、「ウソをつくな!」という義務の絶対性なのである。著者は、「ウソに対するホントの先行性」(あるいは、カント風に表現して「ウソの超越論的条件」と呼ぶことにしたい)という。

ウソは、ホントが前提されてはじめて可能になり、ホントに寄生して営まれるのだ。(…)子どもには、「ウソをつくな!」と繰り返し教育するが、それは、この先行的な条件を身につけさせるためなのだ。(…) ウソをホントはレベルが異なり、ホントが成立してはじめて、ウソが可能になる。カントが強い口調で真実を要求するのは、まさにこの先行的なレベルの話だと考えなくてはならない。(p.139)

時限爆弾シナリオ」は、次のような問題だ。

テロ組織が人口密集地に時限爆弾を仕掛けたという情報があり、その組織の一員を捕まえた。一両日中に爆弾が破裂し、多くの犠牲者が出そうである。 これを阻止する唯一可能な方法は、捕まえた容疑者に拷問を加え、ホントのことを吐かせ、爆弾を解体することだが、容疑者に拷問を加えてもよいか?

サンデルはさらに先鋭化して、容疑者本人が口を割らないならば、彼の面前で娘に拷問したらどうなるか、というバージョンも生み出している。

いずれにしても、この思考実験は功利主義が正当化の論拠となる。幸福と不幸の総量を計算する方法だ。多数の不幸を避けるためには拷問もやぶさかでないというのが功利主義的解釈だ。しかし、容疑者が正しい情報を持っている確証はなく、ウソの情報を語るかもしれないし、拷問に耐え抜き何の情報も得られない可能性もありうる。拷問によって、爆発を避ける情報を得られなければ、功利主義的にも最悪の結果となる。

サンデルの講義で有名になった「トロッコ問題」でも2つのバージョンを紹介している。

コントロールを失ったトロッコ電車が近づいてきて、線路の先には5人の作業員がいて、右の支線には1人しかいない。このままでは5人の作業員がトロッコに轢かれて死んでいまう。スイッチ(レバー)を引いてトロッコの進行方向を右に切り替えて5人を救い、1人を犠牲人することは正しいか?

陸橋の上からコントロールを失ったトロッコ電車が近づいてくるのが見えたとき、線路の先に5人の作業員がいてこのままでは轢き殺されてしまうことが予想されたとき、自分が陸橋から線路に飛び込んでもトロッコは止められないが、隣に立っている太った男を落とせばトロッコを止められるとしたら、太った男を突き落としたほうがいいだろうか?

前者は、5人を救うために1人が死ぬことになるが、殺人を意図したわけではない。しかし、後者は5人を救うための手段として1人を殺すことになり、「目的を実現するために、他人を手段としてはならない」というカント的義務論に違反するとしている。

「Ⅰ 自己」や「Ⅱ 他者」といった抽象的な概念よりも、「ウソとホント」や「善悪」の問題のほうが、ヒリヒリとした現実感があって面白いのだ。



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インド風カレー 野菜チキン(プチ)@プーさん

ボリュームたっぷりの野菜カレーで有名な武蔵小金井のカレー店「プーさん」へ。

プーさん

店頭には看板など店名を書いた目印は全くなくて、入り口にメニューが置かれているだけ。うっかり通り過ぎるところだった。

この店は行列店として有名なので開店時間の11時ちょうどに訪れると、意外なことに、4人がけテーブル3卓、カンター10席の店内に先客は2人だけだった。

メニュー@プーさん

食後は、ドリンクかアイスクリームがサービスされる。

ドリンクメニュー@プーさん

ご飯の盛りが多いらしいので「インド風カレー 野菜チキン(プチ)1450円」の辛さ「5(超辛)」+「自家抽出アイスコーヒー」で注文した。

しばらくすると、次々にお客が来店したけど、料理がなかなか出てこない。

15分ほどで奥の厨房から「ジャー!」という大量の野菜を揚げる音が聞こえ、数分後に最初のお客に料理が供され、さらに5分ほどでようやく料理が供された。

野菜チキン1450円@プーさん

野菜が山盛りだ。

野菜チキン部分@プーさん

パセリ、ナス、ブロッコリー、インゲン、パプリカ、ピーマン、ブナシメジ、マイタケ、レンコン、小松菜、ズッキーニ、ジャガイモ、サツマイモ、ニンジン、スナップエンドウ、オクラ、コンニャク、タマネギ、キャベツ、カボチャなどが、揚げたり煮込んだりして入っている。

カレーは、煮込んだ野菜や果物をベースに、鰹節や昆布、干し椎茸などの和風だしを加えているという。確かに、旨みが強い

最初にスパイスの香りと辛味が舌を刺激し、次に魚介系の旨み、さらにトマトなど野菜の旨みと酸味、そして最後に果物の香りと甘みが残る。

直径1ミリほどの粒がたくさん入っているので唐辛子のタネかと思ったらトマトのタネだった。タネを包むゼリーが完全になくなるまで煮込んだらしい。

辛さ「5」の超辛でお願いしたけど、まったく辛くなかった。

鶏肉は、固くなるまでしっかり煮込んであって、スプーンで押すと繊維状に解けた。

ご飯はちょうど良い炊き具合で美味しい。

食べ終えるとちょうど満腹になった。プチにして良かった。大盛を頼んだお客もいて、ご飯が山脈みたいになっていた。

アイスコーヒー@プーさん

自家抽出のアイスコーヒーは、残念ながら水出しではないらしく少しだけ雑味が出ていた。でも、芳醇な香りで苦味が効いていてなかなか美味しかった。


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◆希望支払金額:1450円(野菜と和風だしの旨みがスパイスにマッチしている)
◆費用対効果度:100%(1450円/1450円)

プーさん
住所:東京都小金井市前原町3-40-27
営業時間:
 [水~日]11:00~15:00 17:30~21:00
 [月]17:30~21:00
定休日:火曜日

※JR中央本線武蔵小金井駅の南口を出て、小金井街道を300メートルほど南下し、「前原坂下」交差点を渡って20メートルほど先の右側に店はある。



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『生命誕生―地球史から読み解く新しい生命像』中沢弘基(講談社現代新書 2262)

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『生命誕生―地球史から読み解く新しい生命像中沢弘基(講談社現代新書 2262)


生命の起源について、これまでRNAワールド説や粘土説、宇宙起源説などさまざまな仮説が出ている。生物進化についても、用不用説や突然変異説、自然選択説など、個々の生物種が特殊な形態に進化する理由が説明されてきた。

しかし、「なぜ、生命が発生して、生物には進化という現象があるのか?」という根源的な命題は解かれていない、と著者はいう。

本書は、「地球エントロピーの減少に応じた地球軽元素の秩序化」という熱力学第二法則からスタートし、隕石衝突で発生による「有機分子ビッグ・バン説」と「生物有機分子の地下深部進化仮説」 で、この難問に答えている。

「太古の海は生命の母」ではないのだ。

【目次】

第1章 ダイナミックに流動する地球
 1−1 無視された大陸移動説
 1−2 大陸移動説の復活
 1−3 プレートテクトニクス、流動する地球
 1−4 プレートテクトニクス、全地球流動
第2章 なぜ生命が発生したのか、なぜ生物は進化するのか?
 2−1 生命の発生や生物の進化は物理の大原則に反する?
 2−2 生命の発生と進化の必然性
第3章 “究極の祖先”とは?—化石の証拠と遺伝子分析
 3−1 最古の“生命の化石”
 3−2 遺伝子で探る“究極の祖先”
 3−3 遺伝子は量子力学の支配する“分子”でなければならない!
第4章 有機分子の起源—従来説と原始地球史概説
 4−1 有機分子の起源、従来説
 4−2 概観:冥王代および太古代の地球冷却史
 4−3 40億〜38億年前頃、“局地的”“一時的”に還元大気が生じた!
 4−4 隕石の海洋衝突による“岩石・鉱物の蒸発”:模擬実験による実証
 4−5 隕石の海洋衝突によるアンモニアの局地的大量生成説
第5章 有機分子の起源とその自然選択
 5−1 有機分子ビッグ・バン説
 5−2 「有機分子ビッグ・バン説」の実験による実験による検証
 5−3 生物有機分子の自然選択
第6章 アミノ酸からタンパク質へ—分子から高分子への進化
 6−1 「太古の海は生命の母」の呪縛を解く
 6−2 生物有機分子の地下深部進化仮説
 6−3 「生物有機分子の地下深部進化仮説」の実験による検証
 6−4 生物有機分子のホモキラリティ(光学活性)、自然選択の結果か?
第7章 分子進化の最終段階—個体、代謝、遺伝の発生
 7−1 プレートテクトニクスの開始と付加体
 7−2 「個体」の成立と小胞融合
 7−3 生命誕生!
 7−4 遺伝子的乗っ取り説とFe−Sワールド説
第8章 生命は地下で発生して、海洋に出て適応放散した!
 8−1 地球軽元素進化系統樹―“根のある”生物進化系統樹
 8−2 生命を生んだ「水の惑星」―地球


地球は46億年前に誕生して以来、内部にある熱を外部に放出し続けている。エントロピーが減少し続けているのだ。

化石の研究によって生物種は「巨大化し特殊化して絶滅する」という「進化の法則」があることがわかっている。進化とは、より多くの分子が、高度な組織の中に固定されて自由度が奪われる歴史なのだ。単細胞生物のバクテリアから多細胞生物へと進化し、巨大化と組織化のプロセスを積み重ねて、ゾウのような巨大な生物やヒトのような高度な知能を持った生物へと進化してきた。

しかし、この生物進化は基本的な物理法則の1つである熱力学第二法則に反している。

宇宙の全体や物質は、大局的にはエントロピーの増大に向かっている。どんな物質も放っておけば無秩序な状態に向かい、周囲の環境と区別がつかなくなっていく。コップの水にインクを垂らせば、一時的には濃淡が生じるが、最終的には水全体が均一に着色されてそれ以上は変化しない。自然現象は、必ず「秩序が崩れて無秩序になるように変化する」という熱力学第二法則に従っている。

生命現象も「崩壊して平衡状態になる」という熱力学第二法則に矛盾している。シュレーディンガーは『生命とは何か』で「生物体は“負のエントロピー”を食べて生きている」と説いた。 動物はエントロピーの小さい他の生物を摂取して、エントロピーの大きな排泄物を排出し、その差額で自分自身のエントロピーを小さく保ち、生命を維持しているからだ。

著者は、生物進化と生命現象は地球の放熱によるエントロピーの減少の結果だとする。

46億年前に微惑星の衝突エネルギーでドロドロに溶けて均質になった地球は、熱の放出にともなって温度が下がり、重い金属元素は核に、軽いアルミニウムやケイ素の鉱物はマントルに、そしてもっとも軽い水素(H)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)などの軽元素は水や大気となって地表に濃集する、そういう層構造に“秩序化”したのです。(p.79)

熱の放出が続いて、地球の構造は複雑化し、陸地や海の形状は時代とともに複雑になり、核やマントルの層構造もさらに細分化した。軽元素もエントロピーの減少によって秩序化し、その結果が有機分子の生成であり、生命の発生、さらにはその進化なのである。

生命の発生と生物進化は、地球のエントロピーの減少に応じた、地球軽元素の秩序化(組織化・複雑化)である(p.79)

アメリカの科学者スタンリー・ミラーは、水を沸騰させてメタン・アンモニア・水素からなる原始大気に放電し、タンパク質のもととなるアミノ酸などの有機物を合成することに成功した(ミラーの実験)。

かつては、生命誕生は「ミラーの実験」のようなシナリオだろうと思われていた。しかし、20世紀末の地球物理学の進展で、原始地球にはメタンやアンモニアは存在しなかったことが判明したため、その研究は過去のものとなった。

しかし、著者は「ミラーの実験」のような環境も存在したという。

40億〜38億年前頃に現在の1000倍ほどの頻度で隕石が大量に降り注ぐ「後期重爆撃」の時代があって、秒速10km以上の隕石が、海面に衝突し、隕石と海水、海底岩石・鉱物の蒸発して局地的に還元大気が発生し、アンモニアや有機物質が生成することを実験によって証明したのだ。著者は、これによって大量の有機分子が発生したとする「有機分子ビッグ・バン説」を提唱している。

発生した有機分子の一部は、粘土コロイドにくっついて海底深くに沈み、堆積して高温・高圧化環境で濃縮・脱水・高分子化する。アミノ酸や核酸塩基が重合して、タンパク質の片鱗であるポリペプチドまで脱水重合することも、著者は実験によって証明している。「生物有機分子の地下深部進化仮説」である。

海底の地下で、酵素やRNA/DNAの片鱗にまで進化した生物有機分子は、プレートの移動で熱水による加水分解の危機に遭遇し、鉱物結晶による小胞の「個体」を得たものだけがサバイバルし、熱水脈の中で離合集散しながら共生・融合して代謝機能を獲得し、さらに核酸の片鱗を取り込んでRNA/DNAを獲得して、自己複製機能を備えた。

これが著者の提唱する「生命誕生」のシナリオである。

これは、従来の生物進化系統樹において未解明であった「根」の部分であり、有機分子と生物とのつなぎ目である「生命の起源」の謎を解明する提案である。

かつて、生化学者の大島泰郎氏から「ミラーの実験を超えるブレークスルーがいくつもなければ、生命の起源の謎は解けない」と伺ったことがある。著者の学説は、そのブレークスルーの1つなのではないだろうか。



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昼食時は「難民」と化して「新書」を片手に、都内各地を彷徨っています。

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