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『日本人はなぜ謝りつづけるのか』中尾知代(NHK出版生活人新書 264)

日本人はなぜ謝りつづけるのか

『日本人はなぜ謝りつづけるのか―日英〈戦後和解〉の失敗に学ぶ中尾知代(NHK出版生活人新書 264)

著者は、オーラル・ヒストリー(口頭による歴史記述)が専門の岡山大学准教授。歴史の当事者にインタビューすることで、政府による公式の歴史に書かれていない事実を掘り起こしている。テーマは、第二次大戦中の日本軍による連合軍捕虜に対する非人道的行為である。

ところで、私はこれまでタイには何度も出掛けたが、どうしても訪れる気になれない場所がある。バンコクの西にあるカンチャナブリーという町とそのさらに西にある泰緬鉄道の跡地だ。この鉄道は、アメリカ映画「戦場にかける橋」の舞台となったクウェー川鉄橋が有名だ。20世紀初頭にイギリスが計画したものの断崖絶壁が続く地形のために断念した難所だが、ビルマへの補給路として1942年に日本軍が着手し、わずか1年ほどで完成させている。しかし、連合軍捕虜6万人のうち1万3000人、さらに動員されたタイ人、ビルマ人、マレー人、インドネシア人あわせて10万人以上が、虐待や苛酷な労働に加え、食糧不足による栄養失調やマラリア、コレラで死んだといわれている。死者は動員された人々の半数に上るひどい状況だった。苛烈を極めた日本軍の行動で死んだ人々の怨念が籠もる地を訪ねる勇気を私は持ち合わせていないし、動員された地元のタイ人の遺族から非人道的行為を責められた時に返す言葉がない。

日本は1929年にジュネーブで結ばれた「俘虜の待遇に関する条約(いわゆるジュネーブ条約のうちの1つ)」に署名はしたが、持ち帰った国内で批准しなかった。だから、映画「戦場のメリークリスマス」で坂本龍一が演じたヨノイ大尉が言ったように捕虜に対してジュネーブ条約に準じた扱いをする必要はなかった。しかし、勇猛でありながら極めて規律正しい日本軍が捕虜を殴打したり、動員されたアジアの人々に対してまで非人道的な行為をする理由が捕虜達には全く理解できなかったという。また、元捕虜達の中には、最も暴力的だったのは日本兵ではなく、軍属として監視役を務めていた朝鮮半島出身者達だったという声もある。日本兵に日常的に殴打されていた軍属が、捕虜達を殴打するという構造だった。

ヨノイ大尉のような将校クラスはジュネーブ条約の存在を知っていたかもしれないが、ビートたけしが演じたハラ軍曹のような一般の兵隊や軍属達は捕虜の扱いに関する当時の「世界標準」を知らなかっただろうし、捕虜の人権という意識はなかっただろう。そもそも当時の日本には「基本的人権」という概念は存在しなかった。だから、中国戦線での放火、略奪、婦女暴行といった日本軍の規律の乱れ発生して問題となった。乱れた規律を糺すために東条英機の指示で1941年に『戦陣訓』が作成されたが、そこに「生きて虜囚の辱を受けず」という一節があった。これが、捕虜を「恥ずべき存在」と見なす根拠となり、捕虜に対して人間としての尊厳を認めようとする意識は生まれなかったのである。

泰緬鉄道で働かされた元捕虜たちの動向について、これまで日本では損害賠償訴訟のニュースが報道された程度だが、イギリスでは元捕虜やその遺族が謝罪と補償を求めて団体を組織しており、国民の関心も高いという。8月15日は日本では終戦記念日だが、イギリスではVJデイ(Vicotry over Japan:対日戦勝記念日)として、毎年大きなイベントが開催され、マスコミは日本軍の非人道的な行動を繰り返し報道しているらしい。著者はイギリスへの留学を契機に元捕虜への聞き取り調査を始める。本書には、20年以上にわたって丹念に掘り起こしてきた元捕虜たちの想い、元捕虜たちの団体の動き、それに対する日本政府の態度が詳述されている。

英国人元捕虜に対して、日本政府はこれまで2度謝罪をしている。1995年の「村山談話」と天皇訪問を控えた1998年5月にイギリスの大衆紙サンに掲載された橋本首相の「お詫び」だ。日本側はこれで謝罪は済んだと考えているが、元捕虜たちには謝罪の気持ちが伝わっていないし、その謝罪は彼らが到底納得できない内容だった。村山談話ではapologyという言葉を使ったが、首相として日本政府を代表して謝罪したものではなく、後に「個人的謝罪」と訂正したことが問題になった。また、橋本首相の「お詫び」は、日本企業の投資を求めていたブレア首相に騙された反日対抗措置の「広告」だった。対抗面には若い女性の裸が載っているような大衆紙に掲載したのも問題だったし、その「お詫び」をオーナーが同じタイム紙に批判されるというマッチポンプ的な詐欺にもあったという。

著者によれば、イギリスの元捕虜たちの一部がこだわっているのは、日本政府による「謝罪」という言葉である。「お詫び」ではなく「シャザイ」という日本語を求めているのだ。日本政府が「謝罪」という言葉で自らの非を認め心からの謝罪をしなければ元捕虜たちが納得することはない。日本政府は「村山談話」以降、民間外交を援助することで「和解」のための政策を実施している。日本ではこの「和解」が成功したかに報道されているが、著者によれば「失敗」だという。ごく一部の元捕虜を反日から親日に変えたに過ぎないからだ。

結局、日本政府の謝罪の方法があまりにも稚拙だったから、いつまでも謝罪を要求されることになっているのだ。

本書の「扉」には、「For those who died with unanswered questions in their hearts.(応えられぬ問いを胸に死んでいった人々に捧ぐ)」という献辞がある。元捕虜たちは、「なぜ日本兵は捕虜に対してあんなに残忍でいられたのか」「なぜ日本兵は徴用したアジア人たちを動物のように扱ったのか」「なぜ日本政府はちゃんと謝罪しないのか」などさまざまな疑問を胸に次々と亡くなっているのだ。

結局、元捕虜達が亡くなってしまうことこそを、日本政府はこの問題の「解決法」として望んでいるのではないか。

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