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『宇宙を目指した北斎』内田千鶴子(日経プレミアシリーズ 111)

宇宙を目指した北斎



『宇宙を目指した北斎』
内田千鶴子(日経プレミアシリーズ 111)

本書は、90歳の生涯を終えるまでに膨大な量の作品を残した葛飾北斎の評伝である。代表作である「冨嶽三十六景」や「北斎漫画」など、主要な作品の制作過程や版元との関係などが詳しく書かれている。

日経ビジネスオンラインに24回シリーズとして書いた「カオスを描いた北斎」が元になっているが、「カオス」を「宇宙」に変えたのは、北斎が北極星や北斗七星を神と仰ぐ妙見菩薩を信仰していたと想像されることを強調するためらしい。北斎は、北斎辰政や北斎戴斗といった画号も用いた。「辰」は北辰すなわち北極星であり、「斗」は北斗七星の「斗」を取ったものだと考えられるからだ。

晩年の北斎が小布施町の祭屋台の天井画として描いた「怒涛図 男波」や「怒涛図 女波」は、巴や卍の渦巻状になっていて「宇宙」を描いていたと思われるらしい。渦巻く怒涛の「男波」の額縁には獅子・孔雀・麒麟といった霊獣が、「女波」の額縁にはエンゼル・インコ・リスといった中国で祥瑞をもたらすとされる生物が描かれているという。

また、北斎の最高傑作として名高い「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の構図が、千葉・行元寺の客殿にある「波の伊八」こと彫刻師の武志伊八郎信由による欄間彫刻とそっくりであることから、北斎が実見して着想したのではないかという話も出てくる。

波の伊八が欄間彫刻を作ったのは文化6年(1809)であり、冨嶽三十六景は文政6年(1823)から天保4年(1835)にかけてとされるので、確かに波の伊八の欄間彫刻を参考にした可能性はある。ところが、北斎はその30年前にも「おしをくりはとうつうせんのづ(押送り波頭通船の図)」や「賀奈川沖本杢之図」といった「神奈川沖浪裏」の祖画を描いている。こちらは波の伊八の彫刻よりも先に描かれているので、画面の半分を占める大波とその斜面を行く船という構図は長年温めた画題だったのである。

「北斎の評伝」と書いたが、本書からは北斎の人物像はあまり浮かび上がってこない。謎だらけの人物で史料も少ないから致し方ないが、例えばシーボルト事件に絡んで追求を恐れた北斎が、なぜ外国船の来航に備えて奉行所が置かれた浦賀に身を寄せたのか。また、晩年になってなぜ何度も小布施町を訪ねたのか。80歳近くの北斎にとって小布施町までの旅は「命がけ」といえるようなものだったのではなかったのか。

ところで、本書には北斎の錦絵や浮世絵を多数掲載されているが、解説文だけの場合もあって甚だ分かりにくいのが残念である。図版の数が不十分なのだ。さらに、極めて不親切というか杜撰な制作になっており、掲載分の浮世絵に図番号をつけてないため、後半で名称だけでてきた場合にはどのページに掲載されているかを読者がページを繰って探さなければならないことになっている。図番号もしくは「○ページ」と参照できるようにすべきだろう。担当編集者の怠慢以外のなにものでもない。

また、著者は本書を「研究論文」としているが、「研究」であるかもしれないが決して「論文」と呼べるような代物ではないだろう。それは、北斎らの言動や感情を小説のように描いているからだ。論文ならば「北斎は興味を持っただろう」と推測することは許されても、「『面白そうだ』と北斎は言った」と書くのは許されないはずだ。創作になってしまうからだ。本書には、そうした創作が随所に散りばめられている。事実の列挙では読み物としての面白みに欠かけるから、というのはエクスキューズにはなりえないだろう。

しかも、そうした創作の多くは何の典拠も示されずに書かれている。出典を明らかにすることは、最低限守るべきルールだろう。ところが「研究論文」としながら、本書では、著者がどんな史料に基づいて北斎の言動や感情を描いたのかほとんど明らかにされない。巻末に参考文献のリストさえない。それでも「研究論文」だと言い張る著者の欺瞞を、なぜ出版社の日経新聞社は容認したのか。

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