『アフリカで誕生した人類が日本人になるまで』溝口優司(ソフトバンク新書 162)
2011-09-19

『アフリカで誕生した人類が日本人になるまで』溝口優司(ソフトバンク新書 162)
著者は、国立科学博物館人類研究部長を務める人類学者。本書は、タイトル通り700万年前にアフリカで誕生した人類が日本にたどり着くまでを平明でありながら詳しく論じている。
第1章と第2章で700万年前の人類の起源を語り、第3章からアフリカで誕生した人類が日本にたどり着くまでを説明している。根拠となるのは、沖縄で発見された森川人(3万6000年前)と、縄文人や中国そのた外国で発見されたヒトの化石である。頭蓋を測った13項目の数値で類似性の確率を調べた結果、縄文人と最も近いとされたのは、オーストラリアのキーロー人(2万年前)であったという。
そこから著者が導きだした仮説は、次のようなストーリーである。
アフリカを出て3万年ほどかけて、ユーラシア大陸の海沿いを東に進んだ人類は、氷河期による海面の低下でマレー半島東側からインドシナ半島、カリマンタン島の北に及ぶ広大な陸地となっていたスンダランドにたどり着いた。その後、一部は北に向かってモンゴロイドとなり、日本にわたって縄文人となったという。別のグループはオーストラリアへ、別の一部はフィリピンから、ミクロネシア・メラネシア・ポリネシアへと向かった。
一方、弥生人は一旦、バイカル湖付近に定住して寒冷地に適応した人々が南下して、中国や朝鮮半島を経て日本に渡ってきた。弥生人の北進にしたがって、縄文人との混血が進み、現代人へとつながったという。
本書は、想定読者を中学生くらいにおいて書かれたのかと思われるほど、平易で親切な解説になっている。専門用語は「脇道にそれるが」として、直後に解説してくれているので、本当に中学生でもわかるように書かれている。設問を設定して、それに答える形で解説を進めている点も読みやすい。
また、著者は、わからないことはわからないと書くという極めて当たり前でありながら、多くの学者ができないことをあっさりと書いている。例えば、炭素14による年代測定法に関して、「だいたいの年代」しかわからないとはっきり書いている。ここにも著者の誠実さが現れている。
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