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『心づくしの日本語―和歌で読む古代の思想』ツベタナ・クリステワ(ちくま新書 929)

心づくしの日本語


『心づくしの日本語―和歌で読む古代の思想ツベタナ・クリステワ(ちくま新書 929)

本書では古典文学に関して驚くべき新説の数々が明らにかされている。

著者は、ブルガリア出身で国際基督教大学の教授。なぜか日本語に興味を持ち、かつてはブルガリアでたった一人の翻訳者として『とはずがたり』や『枕草子』を手がけたという。

著者は、本書で和歌を中心に『竹取物語』や『源氏物語』など古典文学で使われた言葉の意味と用例を詳説して、日本語ひいては日本人の思考・哲学に深く切り込んで、素晴らしい日本語研究、日本論を展開している。

例えば、『竹取物語』で竹が光ったことを「美しい」と表現したのは、「美意識こそが世の中を見る視線であり、世界の成り立ちを説明するための基盤であった。いわば、古代びとにとって美意識は主要な認知方法だったのである」と古代日本人が美意識に基づいて世界を把握しようとしていたことを明らかにしている。

また、とかく批判されがちな日本語の曖昧さについては、日本語が本来もっていた多義性のためであるとしている。yesかnoの二元論が支配的な近代的思考とは異なる中国起源の哲学に依っていることが明らかにされる。

yesとnoの境界をまぎらわせる考え方を古代びとはもっていた。それどころか、その無境界性こそが古代びとの世界観を特徴づけていたとさえいえる。現代に生きる私たちも、二者択一を強いられる二元論の縛りから解放されれば、ずっと目の前にあったのに、見てみぬふりをしていた意味の可能性に気づくだろう。(p.169)

その例として、在原業平の和歌を挙げている。

月やあらぬ 春や昔の春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして

『古今集』や『伊勢物語』にも採られているこの和歌は百首以上の「本歌取り」を生んだだけでなく、著名な研究者やフェノロサまでが英訳を試みていて50例以上になるという。英語に翻訳するには「月やあらぬ」を疑問か否定のいずれかにしなければならないが、この「や」には疑問・反語・詠嘆・呼び掛けなどさまざまな意味があって同時に意味している。これが「あいまい」とされる所以でもあるが、こうした複合的な意味を表現したところに和歌の力があり、二元論では理解出来ない、翻訳できない表現なのだと著者は言う。

また、濁点に使用に関しても注目すべきことが書かれている。濁点のような簡単な符号を近代まであまり使われなかった理由を「同字異義語」として使うためだとしている。例えば、水(みず)は濁点を使わなければ、「見ず」と「見す」という正反対に読ませることが可能だからだという。

圧巻は『源氏物語』の光源氏と藤壺との不倫の子供である若宮をめぐる歌の解釈である。

袖濡るゝ 露のゆかりと 思ふにも なほうとまれぬ やまと撫子

「疎ましく思う」という意味にしたければ「疎まるる」とすればよく、「疎ましく思わない」ならば「疎まれず」とすればよかったのに、紫式部があえて「疎まれぬ」という言葉を選んだのは、2つの意味を1つの言葉に依託したかったからだという。

こうした修辞的な「ぬ」の用例は多く、濁点を使用しなかったことによる「て」と「で」のように「見えて」と「見えで(見えない)」といった正反対の意味を封じ込める例も多いという。

斬新で衝撃的な新説の数々に驚かされたが、本書を繰り返して読んで道しるべとしながら古典文学を読むことになるだろう。


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