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『あなたの中の異常心理』岡田尊司(幻冬舎新書 244)

あなたの中の異常心理


『あなたの中の異常心理』岡田尊司(幻冬舎新書 244)


これまで岡田尊司の書いた本では、自分では気づかずにいた心の隙間や綾といったものについて数々の光を当てられた気がする。

本書も私たちが普段は気づかずにいる心のほころびに焦点をあてて、私たちの心の奥底を鮮やかに描き、今を生きるための智慧を与えてくれている。

最初は、「完璧主義」についてである。私たちの身の回りにも、自ら完璧主義者を名乗るような人も少なくないし、少しの瑕疵を許さない厳しい態度から完璧主義者と名指しされる人もいる。学校でも会社でも完璧主義は、成功へのエンジンとして有効であるかのようだ。しかし岡田は、完璧主義は美意識に過ぎず、同一を求める反復強迫であると看破する。

完璧主義の人にとっては、予定されていたものとの同一性を実現することが、最大の目的なのである。その反復強迫が、そもそも何のためのものであるかは、あまり重要ではない。(略)完璧主義の人が陥りやすい、さまざまな嗜好的行動、仕事中毒、過食と嘔吐の反復、体重を減らすことへのとらわれ、自傷行為と虐待を止められなくなること、アルコール依存などの依存症、それらの背景には、本来の目的を忘れて、ただ繰り返すために繰り返すという反復強迫の病理が、程度の差はあれ求められるのである。(p.27)

続いて完璧主義がもたらした病理を東電OL殺人事件、三島由紀夫、ガンジーなどの例を挙げている。

昼間は一流企業の総合職として働く女性が、退社後は渋谷の円山町で売春をしていて殺された「東電OL殺人事件」は、衝撃的であると共に不可解で底知れない闇を私たちに見せつけた。

本書によれば、彼女は大学生の時にがんで亡くした父に代わって一家を支えなければならないという強い意志を持っていたために、金を得るために売春をしていたという。若くして経済論文を何本か執筆した後に燃え尽きてしまい、仕事の代わりにエネルギーを注ぐはけ口として、退社後にクラブホステスを始め、やがて売春婦という「仕事」にのめり込んでいったという。

そうした逸脱が起きたのは、仕事で限界を感じる一方で、売春の世界では価値を認められる体験というものがあったからだと岡田はいう。

彼女が親しかった客に語ったところによると、売春にのめり込むきかけは、最初の相手が大金をくれたことからという。(p.34)

さらに、彼女が売春を始めたもう1つのきっかけは、妻子ある上司と不倫関係になり捨てられた腹いせだった。

だとすると、脅迫的な売春行為の根底には、実を結ぶことのなかったセックスという心の傷がかかわっており、ある意味、売春行為は、外傷的な状況を再現していたとも言えるだろう。(p.36)

「外傷的な状況の再現」というのは、心に深く刺さったトゲを抜こうとして、その原因となった状況を自ら再現するかのような行為を繰り返ししてしまうことのことだ。

虐待を受けた子供が動物虐待や自傷行為を繰り返したり、父親から暴力を受けて育った女性が暴力的な男性と結婚してしまうようなことは多い。虐待状況を自らで再現してしまうのである。彼女は、不倫が失敗に終わったために心に刺さったトゲを売春で抜こうとしていたというわけだ。

年収1000万円のエリート女性が、わずか数千円を得るために売春を繰り返していたという不可解な行動の原因を、これほど鮮やかに説明されたのは初めてなので驚くばかりだ。私たちは理解の範疇を超えた不可解な行動を見せられると不安になる。因果律が明らかになれば、不可解な行動への共感はできないにしても、わかったような気になって安心できる。

「第二章 あなたに潜む悪の快楽」では、誰の心にも潜んでいる「悪」について論考を深めている。

なぜ人はイジメをするのか。イジメをめぐる多くの議論が忘れていることは、イジメには強烈な快感が伴うということである。いじめている側は、面白くてたまらないのである。ある少年は、自分より年下の弱い相手をいじめるとき、頭が真っ白になり、しびれるような快感を味わったという。それは軽い意識の解離を伴い、理性を麻痺させてしまうほど強烈であるという点で麻薬を使ったときの快感に似ているとさえ言えるだろう。(p.57)

イジメは麻薬のようにクセになる快感であり、快感という報酬をもつことによって容易に強化され、嗜癖性をもつのだ。窃盗癖や過食症も、その快感が強烈であるため、明らかに不利益だとわかっていても止めることができないのだ。

近年、人間の中の異常性や犯罪のような異常行動がどのように再生産されているのかが明らかになるにつれて、虐待やイジメのようにどこでも起きる、人の心を害する行為こそ、ほとんどすべての悪を育てる温床になっているという構図が浮かび上がってきている。(p.72)

ロードムービーの傑作であるハル・アシュビー監督ジャック・ニコルソン主演の映画『さらば冬のかもめ』は、盗癖のある若い海兵を2人の下士官が軍刑務所に護送するストーリーだ。たった40ドルを盗んだ罪で8年の禁固刑を受けた海兵を護送中に、下士官たちは母親に会わせようと実家を訪ねる。しかし母親は不在で、玄関ドアのガラス越しに脱ぎっぱなしの服で散らかった部屋の中が見える。海兵の病的な盗癖は、家庭環境に原因があったことを暗示するシーンだった。

護送中の列車の中で若い海兵が言う。

「プラモデルまで盗んでしまったことがあるんだ。組み立てることなどできないのに……」

岡田は、経験的な事実として、イジメやDV、虐待、窃盗癖、過食症、依存症、自虐性、嗜虐性の背景には、幼いころに愛情不足を味わった人にみられやすいという事実を挙げている。欠落したものを抱えているという飢餓感が、自己目的化した快楽の円環に閉じ込められ、繰り返しても満たされることのない行動に耽り続けることになるのだ。

人が生きるための基本的な欲求が損なわれたときに、人は異常心理の世界に飲み込まれ、不可解な考えや行動にとらわれる、と岡田は言う。人間の根源的な欲求とは何か。自己を保存しようとする欲求と、他者からの承認や愛情を求める要求だという。

この2つの基本的な要求が満たされないときに、病的な自己目的化や自己絶対視に陥って、出口のない自己追求に入り込んだり、両価性や解離という自己分裂を起こすしか自己を保つすべがなくなるのだ。

異常心理に陥らないようにするには、どうすれば良いのか。岡田は「おわりに」で簡潔に答えている。

・自己目的化や自己絶対視といった閉鎖回路に陥らないように用心すること。
・ときどき自分を振り返り、狭い価値観や1つの視点にとらわれすぎないこと。

さらに、

・他者との相互的な関わりを保つこと。

一時的に閉鎖回路に陥っても、他者を介することで、そこから脱することもできる。何でも相談できる、安全基地となる存在が身近に1人いるだけで、追い詰められるリスクは半分以下になる。(p.262)

精神の正常と異常に明確な境目などない。異常心理と呼ばれるような心理状態は私たちの心の中にあって、わずかなきっかけで燃え上がる可能性がある。

だからこそ、異常心理を知ることは、自分を見失うことなく生きるための智慧となるのだ。



■関連書籍
『アスペルガー症候群』岡田尊司
『境界性パーソナリティ障害』岡田尊司
『回避性愛着障害―絆が希薄な人たち』岡田尊司


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