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昼食難民の新書生活

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『北朝鮮で考えたこと』テッサ・モーリス・スズキ/田代泰子訳(集英社新書 0643D)

北朝鮮で考えたこと



『北朝鮮で考えたこと』テッサ・モーリス・スズキ/田代泰子訳(集英社新書 0643D)


著者はイギリス生まれのオーストラリア人歴史学者。夫は、作家の森巣博。著者は、日本近代史が専門であり、大日本帝国の戦争犯罪に批判的なことで有名だ。

本書は、1911年に刊行されたエミリー・ケンプの『The face of Manchuria, Korea, & Russian Turkestan』のうち、満州と朝鮮半島を巡る旅の足跡を辿るものである。エミリー・ケンプは、18世紀から19世紀にかけて世界中を旅した、女性大旅行作家の1人。

ケンプの本は、カリフォルニア大学のデジタルライブラリー(California Degital Library)で、約250ページの全文を刊行当時のままの美しい電子書籍で読むことができる。布張り上製本の表紙に箔押しされた朝鮮王朝の役人もはっきり見える。

『The face of Manchuria, Korea, & Russian Turkestan』の著者であるケンプが旅をした1909年は、弱体化した清が朝鮮半島から後退し、日本とロシアが支配権を争ってしのぎを削っていたころであり、翌年には朝鮮併合が締結されている。

『日本奥地紀行』で有名なイザベラ・バードは、ケンプよりも25年前の1884年から4度に渡って朝鮮各地を旅して『朝鮮紀行』を著している。バードは、腐敗しきった両班階級の役人が無能で吸血鬼のように民衆から搾取し、その民衆たちの無気力から、朝鮮半島の自主独立は不可能であると断じた。その一方で、日本人の手によってインフラの整備が進み、朝鮮半島の近代化が進む様子を描いているが、1909年にケンプが朝鮮を訪れたときには、すでに日本による朝鮮の植民地化は既成の事実となっていたようだ。

ケンプは朝鮮の伝統的な建物がなくなり、新古典主義の近代建築に建て替えられていくことに嫌悪をいだいていたようだ。本書の著者も同感のようだが、西欧人にありがちな“上から目線”による懐古趣味か、鉄とコンクリートの近代建築嫌いでしかないだろう。

著者は、新義州・平壌・38度線の両側・ソウル・釜山・北朝鮮の元山・金剛山へと、ケンプの旅した順に足跡を辿る。その紀行文は社会科学者とは思えない情緒に流れた記述が続く。“反日”知識人らしく、大日本帝国が支配したことによる弊害は語るが、インフラの整備や健康増進による急激な人口増加といった植民地化によって朝鮮半島で成し遂げられた近代化には全く触れない。

北朝鮮の旅は役人のガイド付きだから当然だが、悲惨な庶民の暮らしや監視国家の凄惨な実態を目にすることなく、田舎の緩やかに時の流れる前近代的な情景が淡々と描かれている。ほとんど新奇の情報が与えられないまま読み進めると、著者が北朝鮮をめぐる国々の反応を端的に記している一節があった(p.220)。

・北朝鮮指導者は「必要とみなすあらゆる手段を使って権力にしがみつく」
・韓国政府は「北が勝手に崩壊するのを待つことで満足している」
・中国は「東の国境の終わりない不安定さに焦燥感を募らせている」
・アメリカは「地球の反対側で起きている危機に没頭している」
・日本は「隣の“ならず者国家”に恐れをなしてたじろいでいる」
・ほかの世界は「最後のスターリン主義国家の奇っ怪なありさまを、冷笑的嫌悪感とともに見物を決めこんでいる」

なぜかロシアの態度には触れていない。著者が旅の途中でロシア人技術者たちと出会ったように、政治的な影響力は低下したとしても、金日成を将軍に祭りあげて実質的に北朝鮮を誕生させ、しかも金正日が生まれた地であるロシアは北朝鮮をずっと支援してきた。著者は、ロシアの動向に興味がないということだろうか。

「いずれ崩壊する」と言われ続けて20年以上になる北朝鮮が、100万人単位の餓死者を出しながらも存続しつけているのは、国境を接する中国・韓国・ロシアはもちろん日本やアメリカが崩壊を望まないからだ。

「あとがき」で好悪両方の反応があるだろうと覚悟を示している著者だが、結局のところ崩壊寸前の国が崩壊する前に駆け足で観光してきた、という程度の紀行文にしかなっていないと言わざるを得ない。もちろん、外国人旅行客には不可能かもしれないが、北朝鮮の実態をちゃんと見てはいないし、北朝鮮国民への同情以上のことは考えなかったからだ。






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