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昼食難民の新書生活

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『食べる日本近現代文学史』平野芳信(光文社新書 629)

食べる日本近現代文学史



『食べる日本近現代文学史』平野芳信(光文社新書 629)


本書は、日本の小説の中における料理を切り口に、男女の役割の変化や小説家が直面している課題の困難さに迫っている。

【目次】

第1章 食べることと“文学”
第2章 食べることと“性”
第3章 食べることと“女”
第4章 食べることと“家族”
第5章 食べることと“文化”
第6章 食べることと“病気”
第7章 食べることと“現代”


著者が書いている通りに、衣食住の中でも食は生きるために必須であり、根源的な欲望であるのはいうまでもない。

しかし、日本では儒教的な教えの伝統によって、最も大切な食に関して言葉を発することが禁忌とされてきた。今でこそ会話を楽しみながらの夕食は一家団欒の理想と見做されるが、少し前までは食事中の会話は厳禁だったし、料理の感想を述べることも憚られた。

こんなわけだから、食通や美食家という呼び名にはいまでもいくぶん侮蔑の香りがまとわりついているように思える。食は男子が語るべき対象ではなかった。

その一方で、食べる描写に心を砕いて書かれた小説も少なくない。本書で著者が〈料理小説〉と呼ぶ小説の多くは必ずしも料理がメインテーマとなっているわけではない。本書では、文学・性・女・家族・文化・病気・現代という7つのテーマにおける〈料理小説〉が解説される。「食べる」シーンを中心に現代における小説の在り方と現代人の行動原理の変化に注目しているのだ。

前半は、小川糸、川上弘美、江國香織、向田邦子、森茉利、岡本かの子、群ようこといった女性作家たちの描いた食べるシーンを中心に展開される。

食べ物の話ばかりして、一向に文学談義をしない筆者は、恩師に「お前の舌は堕落している」と非難されたそうである。(p.152)

著者は、村上春樹以前には、小説の中で食べることをさまざまなレベルで巧みに描写した作家は存在したが、作るという視点は欠落していた、と言う。(p.171)

しかし、それはどうだろうか。開高健は実際にはほとんど調理はしなかったようだが、エッセイはもちろんいくつかの小説の中で料理を作るシーンを活き活きと描写している。

さらに、村上春樹が7年間にわたってバーで料理を作り続けることが「自分というものを確立する」ためだったと語っているのは、自身を相対化し読者を想定した作品を生み出す術を獲得させた、と分析している。客に評価される料理を作ることが村上の小説家修業だったというのだ。

果たしてそうだろうか。むしろ、意に添わない調理を続ける日々が、物語を生み出したいという欲望を心の奥底で沸々と発酵させ、爆発させるエネルギーになったのではないだろうか。

本書の最後で、村上春樹『ノルウェイの森』、よしもとばなな『キッチン』、開高健『珠玉』、江國香『きらきらひかる』、南木佳士『阿弥陀堂だより』、村上春樹『蜂蜜パイ』と1987年から2000年までの小説から、男女が制度的に縛り付けられてきた役割からの解放がこの時期に起こったと眺望して見せている。

しかし、本書には決定的な欠落がある。著者は壇一雄を忘れている。『壇流クッキング』という痛快な調理本や『美味放浪記』で、壇が単なる食通ではなく万能の調理人だったことはよく知られているが、『リツ子・その愛』や『リツ子・その死』、『火宅の人』では珠玉のような食べるシーンを描いている。壇一雄は、食べることを通して人間の業を深く見つめた作家だった。


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