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『女装と日本人』三橋順子 (講談社現代新書 1960)

女装と日本人 (講談社現代新書 1960)


『女装と日本人』三橋順子 (講談社現代新書 1960)

著者は、長年にわたって女装を実践している性別越境者(トランスジェンダー)の性社会史研究者。

著者が自らを最近流行りの「性同一性患者」ではなく「性別越境者」であると定義するのは、「性同一性障害」という治療の対象となる「病気」にかかっているのではなく、女装や女っぽいふるまいによってジェンダーは女性だが、身体的には男性のままで不都合を感じていないからだという。

著者によれば、日本は性別越境に関して寛容な国である。その特徴として、次の5点を挙げている。

(1)日本人は、性別越境者の芸能に強い嗜好がある。
(2)異性装者について、少なくとも個人レベルでは、比較的寛容な意識を持っている。
(3)そうした文化や意識は世界の中でかなり特異である。
(4)そしてそのことにほとんどの日本人が気づいていない。

ということであり、本書は「女装好きな日本人」の原点を探ろうというものである。これまで女装についてのまとまった研究書はないという。

本書の第1章から第5章までは、古代から近世、現代まで女装の歴史について詳しく解説している。しかも単に女装という服装に止まらず、日本人の性意識や性行動までが明らかにされる。例えば、寺院と持者や女装稚児、歌舞伎と陰間など、西欧的な性意識が採用される明治以前までは、男性の性対象が女性だけではなかった日本人のゆるやかな性意識が描かれる。

「終章 文化としての女装」は、トランスジェンダーと女装に関する歴史的分析、文化的解析として優れた考察である。独立した論文として執筆されたのかもしれない。

『古事記』や『日本書紀』には、女装の英雄譚について書かれている。ヤマトタケルによる熊襲征伐も女装の伝説である。景行天皇によって熊襲討伐を命ぜられた、オウスノミコトは叔母の衣装を借りて熊襲に乗り込み、女装して宴会に紛れ込んで、首領の熊襲タケル兄弟を殺し、瀕死の弟に「タケル」の名を授けられる。弟の殺害は、尻に刀を刺すという男色行為への復讐的な殺害方法まで記述されている。熊襲側から見れば、オウスノミコトは女装という姑息な手段を使ったテロリストでしかないのではないか。しかし、記紀ではこのストーリーを英雄譚として伝えている。

本書によれば、日本には男性でありながら女性的な装いをする双性的な存在に強い関心を持っているだけではなく、霊的な存在として崇めてきた。その証拠に、双性の巫人(女装の巫女)の痕跡が祭祀などで各地に残っているという。

トランスジェンダーの職能として、著者が挙げているのは次の5点。

(1)宗教的職能(異性装のシャーマン)
(2)芸能的職能(インドから東南アジア、中国、日本に存在)
(3)飲食接客的職能(日本のみで発達)
(4)性的サービス的職能(芸能者であり飲食接客者であり、セックスワーカー)
(5)男女の仲介者的職能(人生相談。双性的存在に対するジェンダーの緩衝装置的な需要)

5つの職能は、元来、祭祀や神事に発祥する職能である。トランスジェンダーという異質・異能・異形な存在は、畏怖と畏敬の対象として祭祀や神事に古くからかかわってきたことの証左である。日本人は「女装好き」だが、実は日本以外の国々にも性別越境者の歴史はあった。しかし、日本やタイに性別越境者が多いのは、キリスト教の影響が少ないからだという。

キリスト教は同性愛に対して、苛烈な態度を示している。その禁忌が聖書に明記されているからである。

「男がもし、女と寝るように男と寝るなら、ふたりは忌みきらうべきことをしたのである。彼らは必ず殺されなければならない」(『旧約聖書』「レビ記」第20章13節)

また、異性装についても禁忌が書かれている。

「女は男の着物を身につけてはならない。男は女の着物を着てはならない。このようなことをする者をすべて、あなたの神、主はいとわれる」(「申命記」第22章5節)

女装の芸能を好み、男と女という性別の二元論にこだわらなかった日本人が、性別越境者を差別するようになったのは、明治時代にキリスト教的倫理観に基づいたドイツの精神病理学を取り入れたことによるという。同性愛や性別越境者を「変態性欲」という精神的な「病気」と定義したためである。

著者が、自らを性同一性障害ではなくトランスジェンダーとしているのは、治療すべき「病気」であるとする点が明治時代の「変態性欲」という定義と同じだからである。



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