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『犬の伊勢参り』仁科邦男(平凡社新書 675)

犬の伊勢参り



『犬の伊勢参り』仁科邦男(平凡社新書 675)


明和8年、犬が突如、単独で伊勢参りを始めた。

そんな馬鹿な、今で言う都市伝説の類かと思うが、以来、明治になるまでの100年間に渡って、数々の「犬の伊勢参り」の目撃談が残されているのだ。

本書は、膨大な史料を駆使してこの「犬の伊勢参り」の謎に迫っている。

【目次】

序章 犬が拝礼した
第1章 「虚説」か「実説」か—明和八年、御蔭参り
第2章 単独で伊勢参宮
第3章 文政13年の御蔭参りと「不思議」の正体
第4章 神宮と犬、千年の葛藤
第5章 ぞくぞく犬の伊勢参り
第6章 豚と牛の伊勢参り
第7章 長旅をする犬たち
終章 犬たちの文明開化


そもそも伊勢神宮では、鳥獣は穢れのため立ち入りが禁じられていた。しかし、犬はたびたび神域に立ち入っては追い払われていた。

ところが、明和8年(1771)4月 、犬が手洗い場で水を飲んでから本宮の方へとやって来て、お宮の前の広場で人間と同じように平伏し拝礼する格好をしたため、その場にいた神官たちは驚いた。

この犬の飼い主は、山城国久世郡槙の島に住む高田善兵衛。この犬は、飼い主の元を離れ、山城の国からはるばる伊勢までお参りにきたのである。

「犬の伊勢参り」というのは、飼い主の伊勢参りに同行したものではなく、犬が「単独」で参詣した話だ。

伊勢参りの犬には、伊勢参り中であることや飼い主の氏名・住所が書かれた木札が首に括りつけられ、路銀をいれた袋を下げていた。そして、無事に伊勢神宮の御札をもらって帰ってきた犬が伊勢参りの犬なのだ。北は青森の黒石、南は長崎の平戸と全国津々浦々から、続々と犬が伊勢参りをしていた。

しかし、犬が自らの意思で伊勢参りを志すはずはない。なぜ犬達は伊勢参りをするようになったのか。

もちろん、犬に伊勢参りをさせたのは人間である。

江戸時代の人々にとって伊勢神宮は、イスラム教徒にとってのメッカのように「一生に一度は訪れたい聖地」だった。

しかし、伊勢参りをするには費用がかかるため、どんなに行きたくてもいけない人は多い。そうした、奉公人や女性、子どもたちは、「抜け参り」という親や主人に無断の伊勢参りを断行した。式年遷宮の前後には抜け参りが多発し、大規模になると「御蔭参り」と呼ばれた。

現在の式年遷宮では、旧社殿はすぐに解体されるが、江戸時代には新社殿の横に旧社殿が残されて2つの社殿を拝礼出来るだけでなく、旧社殿には出入りできるようになっていたため、伊勢神宮は観光地としての魅力も高かったという。

最初に伊勢参りをした犬は、抜け参りや御蔭参りの集団についてきたものらしい。

飼い主の代理で伊勢参りをした犬もいた。伊勢参りを発願したが、仕事や病のために叶わず、飼い犬に伊勢参りの木札と路銀をつけて送り出し、伊勢神宮の御札をつけて帰ってきたこともあるという。

飼い主の知らぬ間に伊勢参りを果たした犬もいた。

誰かが、犬を見て「これは伊勢参りの犬だ」と思い込むと、「信心深い犬だ」と感心され、エサや寝床、銭まで提供される。さらには、迷わないように隣の宿駅まで送り届けられる。こうして宿場から宿場へと旅をして伊勢神宮までたどり着き、御札をもらって無事に帰る、ということだった。

なぜ「伊勢参りの犬だ」と思い込んだのか。伊勢神宮にはさまざまな「不思議」があると思われていたからだ。伊勢神宮の御札が降って「ええじゃないか」のきっかけになったのは有名だ(実際には、伊勢神宮の御師が集客のために撒いたものらしい)。

こうした犬の伊勢参りは、江戸中期には人々によく知られるようになっていた。江戸・南町奉行の根岸鎮衛は『耳袋』で、「犬の伊勢参りは珍しくないが、豚の伊勢参りがあった」と記している。犬の伊勢参りは珍しくもない出来事だったのだ

最後の犬の伊勢参りは、明治7年、東京日本橋・新和泉蝶の古道具屋渡世の白犬によって記録され以降の記録はない。

文明開化によって、欧米から飼い主の所有物である「飼い犬」という概念がもたらされ、それまで日本中のどこにでもいた里犬(町犬・村犬)のような、飼い主が明らかではないファジーな存在が許されなくなった。飼い犬と野良犬の2種類だけになり、野良犬は捉えて駆逐する対象となってしまった。

他人の所有物である飼い犬を通りで見かけても、伊勢参りをさせようと考える人もいなくなったのだ。

人間と犬との関係の近代化が、「犬の伊勢参り」という現実離れした信仰ともファンタジーともつかない夢物語を「有り得ないもの」にしてしまったのだ。



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