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『非線形科学 同期する世界』蔵本由紀(集英社新書 0787G)

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非線形科学 同期する世界』蔵本由紀(集英社新書 0787G)

事件は、ミレニアム・ブリッジの開通式当日に起こった。

西暦2000年を記念してロンドンに建設された長さ325メートルの歩行者専用吊り橋ミレニアム・ブリッジは、見物客が渡り始めるとヘビのようにウネウネと大きく左右に揺れだしたのだ。

オランダの科学者ホイヘンスは、2つの並んだ振り子時計の振り子が申し合わせたように完全に歩調を揃えて左右に振れることを発見した。しかし、「一種の奇妙な共感」と名づけたこの現象は、当時の数理的手法では解明できなかった。

長崎のオランダ商館で働いたドイツ人医師ケンペルは、長崎に来る途中のシャムでアジアボタルが一斉に明滅するさまを観察して『日本誌』に書き記した。

吊り橋が歩行者の歩みで大きく揺れる、2つの振り子が左右対称に振れる、ホタルが同時に明滅する、といった「同期」は非線形現象と呼ばれる。線形代数では解けない現象だ。

著者は、同期する非線形現象を記述するために「蔵本モデル」を編み出したこの分野の世界的権威。

本書は、物理学・数学・工学・生命科学・社会学と分野を越えて、「同期」という不思議な現象を解明するための非線形科学の手法を解説している。

【目次】

第1章 身辺に見る同期
  ホイヘンスの発見—二つの振り子時計は共感する
  国の命運を左右する時計の精度 ほか
第2章 集団同期
  ミレニアム・ブリッジの騒動
  歩行の同期はなぜ起きたか ほか
第3章 生理現象と同期
  集団リズムとしての心拍
  揺らぐ心拍 ほか
第4章 自律分散システムと同期
  中枢パターン生成器(CPG)が担う身体運動
  ヤツメウナギの遊泳 ほか


歩行者専用吊り橋の揺れと、生物であるホタルの集団明滅、そして振り子時計の振り子が同期するのは、原因も機構も全く異なる。しかし、「同期」を切り口に解析すると、この不思議な現象の規則性が見えてくるのだ。

規則的な反復運動をする実体を「振動子」、振動子の進み具合の違いを「位相」と呼ぶ。振動子を円周上を回る粒子に見立てると、「同期」は2つの振動子が一定の「位相差」で周回していることになる。粒子の周回速度は、自然周波数となる。これを「位相モデル」と呼ぶ。

ホタルが集団明滅するのは2つの振動子が結合して円運動しているイメージで「同相同期」、振り子が左右対称に振れるのは2つの振動子が180度離れて円運動しているイメージで「逆相同期」という。

多数の振動子がある場合、各振動子がすべての振動子と同じ強さで結合するモデルを考える。こうした近くのもの同士も遠く離れたもの同士も、等しくつながっていることを「平均場モデル」という。

平均場モデルの集団では「個と場の相互フィードバック」が発生する。揺れる橋が歩行者それぞれの動きを支配する共通の場になっていると同時に、場の揺れは歩行者の動作の総体が生み出すものになっている。個人の考えに影響を及ぼす世論が個人の考えの総和で形成されるのは、その一例だ。(p.96)

個と場の相互フィードバックが強く働くシステムでは、集団全体を巻き込む突然の秩序形成や秩序崩壊である「転移現象」がしばしば起こる。フィードバック機構を内在させたシステムには、プラス傾向とマイナス傾向の相対的な優位性が逆転する臨界点が存在する。突然の転移はそこで起きる。

振動子間の結合力を強めていくと、プラスのフィードバックが強まっていきます。一方、自然周波数のばらつきを大きくしていけば、マイナスのフィードバックが強く働くようになります。以上のことから、周波数のばらつきは変えないで結合力だけを強くしていけば、あるところで集団リズムが発生しますし、結合力を一定にして周波数のばらつきを小さくしていっても同じ転移が起こります。集団同期によって、静かな集団状態から振動する集団状態に突如変化するこのような転移現象を「同期相転移」と呼んでいます。(p.100)

著者は、平均場モデルにおける個と場のフィードバックを「位相差の正弦関数」で表す「蔵本モデル」を提案した。この「正弦結合モデル」を使えば、さまざまな非線形現象を解析することができるのだ。

例えば、電力供給のネットワークの解析にも適応できる。交流電流は東日本が50ヘルツ、西日本が60ヘルツという周波数になっているが、電力供給網は発電所と変電所を2種類のノード(結節点)とするネットワークと見ることができる。各ノードを振動子とすれば、電力を生み出す発電所はプラスの出力をもち、消費者につながる変電所はマイナスの出力をもつことになる。電力会社は、送電網が常に同期するように輸送電力を調整しているが、送電線には固有の最大許容電力があるため、それを超えない範囲で送電する必要がある。

ところが、送電線の1本が切断されたり、どこかの発電所や変電所が機能停止に陥った場合には、流れるべき経路を断たれた電流は行き場を求めて別の経路に一気に流入する危険がある。それが、送電線の最大許容電力を超えたら同期が破れて大停電になってしまう。

また、電力市場の自由化によって小規模発電業者が参入し、電力ネットワークはより複雑化し、従来なような一元集中管理は難しくなる。しかも、太陽光や風力による発電量は天候に大きく左右されるうえ、受容者側から供給者側に余剰電力を送る逆潮流も増大する。

そのため、この電力ネットワークの安定性や脆弱性に関して、振動子モデルを用いた研究が数多くおこなわれているという。

一方、1匹のホタルの明滅のミクロリズムが協調し、数万匹のホタルが一斉に明滅するマクロリズムになるように、心臓の拍動は細胞集団の同期がもたらすマクロリズムである。

心臓の場合、右心房上部にある「洞結節」と呼ばれる部分が、リズムの発生源であるペースメーカーとなっている。ヒトの場合、そこに約1万個のペースメーカー細胞を含む集団があり、哺乳類の場合、ペースメーカー細胞をばらばらにして培養すると、1つひとつがピクッピクッと自律的に収縮を繰り返す。細胞ごとに収縮のペースは異なるが、2つの細胞が接触するとペースを揃えて収縮し、ひと塊となると単一の力強いリズムが生まれる。この洞結節で生み出されたリズムが、電気的シグナルとなって心筋細胞から心筋細胞へと受け渡され、心臓の拍動となる。ペースメーカー細胞のミクロリズムが、心臓のマクロリズムになっているのだ。

さらに、ATP生成時の細胞内における解糖反応のナトリウムイオンとカリウムイオンの増減振動、インスリン産生には100万個に及ぶランゲルハンス島の同期の様子、真性粘菌の自立分散制御システムによる運動のための原形質の流動振動など、実にさまざまな研究における「同期」について詳しく解説されている。

同期現象の研究は、実に広範な学問分野を一挙に横断する科学なのである。

複雑世界を複雑世界としてそのままに認めた上でそこに潜む構造の数々を発見し、それらをていねいに調べていくことで、世界はどんなに豊かに見えてくることでしょうか。それによって活気づけられた知は、どれほど大きな価値を社会にもたらすことでしょう。今世紀の科学への最大の希望を、著者はこの方向に託しています。(p.240)

複雑系ネットワークやカオスと並んで「同期」の研究は、科学の新しい地平を切り開く可能性を秘めているのだ。



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