TOP > スポンサー広告 > 『エピジェネティクス―新しい生命像をえがく』仲野 徹(岩波新書 1484)TOP > 新書 > 『エピジェネティクス―新しい生命像をえがく』仲野 徹(岩波新書 1484)

昼食難民の新書生活

(新宿・秋葉原・芝浦など各地でのランチと読書)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『エピジェネティクス―新しい生命像をえがく』仲野 徹(岩波新書 1484)

20140822173800083.jpg


『エピジェネティクス―新しい生命像をえがく仲野 徹(岩波新書 1484)


エピジェネティクスは、ゲノム中心の生命観を変えるかもしれない生命科学の新しい概念であり、著者は大阪大学大学院教授でその研究者。

エピジェネティクスは、生命現象の根源的な現象の1つであり、病気の発症にも重要な役割を果たしており、創薬のターゲットとしても脚光を浴びている。ところが、著者はこれまでマスコミの取材を受けてもなかなか記事にされないことに不満をもっていたという。エピジェネティクスはわかりにくく、一般向けにエピジェネティクスを紹介する本が少ないからだ。

そこで本書では、エピジェネティクスの概念、分子レベルでの制御機構、生物における役割、発生や病気における重要性、さらには今後の展開までを解説している。

【目次】

序章 ヘップバーンと球根
第1章 巨人の肩から遠眼鏡で
第2章 エピジェネティクスの分子基盤
第3章 さまざまな生命現象とエピジェネティクス
第4章 病気とエピジェネティクス
第5章 エピジェネティクスを考える
終章 新しい生命像をえがく


エピジェネティクスは、イギリスの発生生物学者コンラッド・ウォディントンが1942年に提案した用語で、「エピジェネシス(後成説)」と「ジェネティクス(遺伝学)」の複合語。しかし、エピジェネティクスの研究が盛んになったのはゲノムの解析が進んだ2000年以降で、わが国でエピジェネティクスの専門学会である日本エピジェネティック研究会は、わずか8年前の2006年12月に設立されたばかりという新しい研究領域である。

エピジェネティクスとは、「遺伝物質からはじまり最終的な生物を形づくるすべての制御された過程の研究」のことで、2008年に次のように定義されているという。

エピジェネティクスな特性とは、DNAの塩基配列の変化をともなわずに、染色体における変化によって生じる、安定的に受け継がれうる表現型である。

わかりやすいのは一卵性双生児だ。まったく同一のゲノムを持っている一卵性双生児でも、コピーのようにまったく同じではなく容姿は微妙に異なる。指紋も似てはいるが異なる。 「DNA→複製→DNA→転写→RNA→翻訳→タンパク」という分子生物学のセントラルドグマからすれば、ゲノムに記録されている情報に基づいてまったく同じ表現型(容姿)になるはずだが実際には微妙に異なる。

1944年にオランダはドイツ軍によって深刻な飢餓状態に陥ったという。そのさなかに妊娠中の女性もたくさんいて、胎生後期に飢餓を経験して生まれた赤ちゃんは体重が極度に低く病弱な子供になった。飢餓が胎生前期だった赤ちゃんはおおむね正常な体重で生まれたが、半世紀後の疫学調査で高血圧・心筋梗塞などの冠動脈疾患や2型糖尿病などの生活習慣病や統合失調症などの神経精神疾患の罹患率が高かった。

また、イギリスで生まれたときの体重と中年になってからの疾病の関係について疫学調査をおこなったところ、生まれたときの体重が低いほど、高血圧や糖尿病といった生活習慣病のリスクが高いことがわかったという。

この2つの現象は、胎児期に充分な栄養がない場合、できるだけ栄養を取り込むように適応したからではないかと解釈されている。しかも、50年という長期にわたって「記憶」が体に刻み込まれている理由は、遺伝でもDNAの塩基配列の異常でもなかった。ゲノムに上書きされた情報であり、そのメカニズムがエピジェネティクスなのだ。

DNAが突然変異を起こさないのに遺伝情報が変わってしまうのは、DNAのメチル化とヒストン修飾という化学的結合によって遺伝子の発現が制御されるためである。

DNAメチル化とは、DNAのシトシンにメチル基が結合することで、DNAの転写が抑制され遺伝子発現が抑制されること。

DNAをテキスト情報とすると、メチル化によってDNAの一部が「伏せ字」になった状態に喩えられる。ワープロソフトでいえば「二重線」のことだ。テキスト情報自体には変化がないので、「二重線」を消せば、また読めるようになる。

一方、ヒストン修飾というのは、DNAの二本鎖が巻き付いているタンパク質のヒストンにアセチル基などの化学物質が結合することで、「この遺伝子は読み出してください」「この遺伝子は読んでいはいけません」ということを示す「付箋」が付くことだという。これらも、DNAメチル化と同様にテキスト情報自体に変化はなく、「付箋」は外すことができる。

ヒストン修飾には、アセチル化のほかメチル化、リン酸化、ユビキチン化などがあり、アセチル化すると遺伝子発現が活性化し、メチル化には活性化と抑制の2つの作用がある。

DNAとヒストンが化学的に変化することで表現型が変わるのは、秋まき小麦を低温で処理すると春まき小麦になる春化や、ミツバチが同一のゲノムを持つ卵から餌のローヤルゼリーの有無で働きバチと女王バチのまったく異なる成虫なることで説明されている。表現型は違うがゲノムは変化していないので、春まき小麦と女王バチが遺伝することはない。

発がんの仕組みについてもエピジェネティクスによる解明が進んでいる。

悪性腫瘍ではゲノム全体のDNA低メチル化と、特定領域のDNA高メチル化という特徴があることがわかっているのだ。特定領域のDNA高メチル化によって、がん抑制遺伝子の発現が抑制され、ブレーキが壊れた状態になっているという。また、白血病や悪性リンパ腫のゲノム解析では、9割の症例でヒストン修飾の異常が見つかっている。

こうしたことから、DNAメチル化を新しいがん診断マーカーとして使用することが可能になっていて、ヨーロッパでは大腸がんの診断がスタートしている。また、前立腺がんについてもPSA(前立腺特異抗体)と組み合わせてスクリーニングする方法が研究されている。

DNAの突然変異を正常化することは不可能だが、DNAメチル化というエピジェネティクスな異常は薬剤で操作することが可能だ。そこで、がん治療に利用しようという研究も進んでいる。骨髄異形成症候群に対してDNAメチル化の阻害剤アザシジンを投与する治療法だ。また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤についても研究が進んでいるという。これが、エピジェネティクスによる創薬の可能性だ。

エピジェネティクスは、生命活動のあらゆる分野に関わっているが、まだまだ端緒についたばかりの研究分野でわからないことも多く、可能性は無限のようだが新しい分野だけに五里霧中だったり試行錯誤も数少ないのだ。



↓ブログランキングに参加中です。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ



関連記事

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://pasage.blog43.fc2.com/tb.php/1762-1d8a524d

 | HOME | 









ブログランキングに参加中です

リンク

お気に入りに追加
このブログをリンクに追加する

最近の記事

にほんブログ村ランキング

ブログ内検索

Loading

カテゴリー


全記事一覧(500件ごと)

カレンダー+月別アーカイブ

ケータイ版URL

QRコード

RSSフィード

プロフィール

pasage

Author:pasage
昼食時は「難民」と化して「新書」を片手に、都内各地を彷徨っています。

FC2Ad

Template by たけやん

QLOOKアクセス解析

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。