『頭の悪い日本語』小谷野敦(新潮新書 568)
2014-09-19

『頭の悪い日本語』小谷野敦(新潮新書 568)
とても不思議なことだが、いまだに「すべからく」を「すべて」と勘違いして使う人が少なくない。「すべからく」は「〜べし(または、そうあってほしいという当為の表現)」を伴って、「ぜひとも〜しなければならない」という意味だから、「すべて」という意味で使うのは完全な誤用だ。
評論家の呉智英が、「すべからく」を「すべて」の高級表現と勘違いして使うスノビズムの恥ずかしくも愚かな誤用を指摘したのは30年以上も前のことなのに、なぜか一部の知識人の間では「すべからく」が人気らしく、誤用のまま出版されている本や雑誌がある。
本書は、そうした誤用や重言、「ルサンチマン」や「上から目線」など、うかつに使用すると「頭が悪い」とみなされてとても恥ずかしいことになる350語を採り上げている。
【目次】
第一部 気持ちの悪い日本語
①誤用編
②重言にご注意編
③インテリぶりたい人編
④間違いじゃないのに編
⑤差別語(狩り)、過剰敬語編
⑥嫌なことば編
第二部 「日本語」勘違い
①政治編
②法律編
③大学編
④名誉編
⑤病気編
⑥文化編
⑦伝統文化編
⑧落語のことば編
⑨エロティック編
⑩新語編
第三部 知って損はしない日本語の豆知識
①言葉豆知識編
②外来語編
③外国語豆知識編
④翻訳語編
⑤漢字編
⑥人名編
⑦地名編
文化庁の調査では「すべからく」を本来の意味である「当然、ぜひとも」で使う人が41.2パーセント、「すべて、皆」で使う人が38.5パーセントだったという。(平成22年度「国語に関する世論調査」)。
「頭が悪い」と言われないように、他山の石としよう。これも文化庁の調査では「先生を他山の石として頑張っています」といった正反対の意味で使う人が18.1%もいたという(平成16年度「国語に関する世論調査」)。
『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳)について興味深い指摘があった(p.132)。「catcher in the rye」は、「pass-by(通り過ぎる)」 を名詞化した「passer-by(通行人)」と同じく、「catch in the rye」という句があって「-er」をつけたものだというのだ。野崎はこれをわかっていて訳したという。村上春樹はこの問題を避けて『キャッチャー・イン・ザ・ライ』としている。
先日読んだ『日本霊性論』で内田樹は、主人公のホールデンが、ライ麦畑で遊ぶ子供たちが崖から落ちないための「歩哨」になることを望んでいたと書いている。つまり、「catch」は「捕まえる」のではなく「受け止める」ということなのだ。
本書で採り上げられている語のいくつかは、確かにうっかりすると誤用してしまうものもある。読んでいて「あっ」と声が出そうになったことばも少なくない。幸いまだ使ったことはなかったが、意味を完全に取り違えていたからだ。
すべからく日本語は正しく使うべし!
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