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昼食難民の新書生活

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『詐欺の帝王』溝口敦(文春新書 916)

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『詐欺の帝王』溝口敦(文春新書 916)


日本では、幼い頃から「嘘をつくな」「人を騙すな」と教えられる。だから、ほとんどの人は、嘘をつくことや人を騙すことは「罪」だと感じている。

ところが、そうした倫理観を容易に逸脱できる人々がいる。

かつて、一般人の倫理観とは大きく異なる人と出会ったことがある。驚いたのは、本人には人を騙している自覚がないらしい、ということだった。

たとえば、「フランス国旗の色は?」と問われたら、普通の人は赤白青の3色と答える。ところが、彼は「赤だ」と言い張ることができた。3分の1は赤色なので、まったくの嘘ではない。だから、彼は良心の呵責を感じることなくトリコロールを赤色と言い切ることができるのだった。それどころか、彼は赤い部分が1%しかなくても「赤だ」と言っても罪悪感を感じない厚顔無恥な人だった。

本書は、裏社会に詳しい著者が、4年前まで「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれ、さまざまな詐欺グループのトップに君臨していた男にインタビューして、詐欺の世界について書いている。

男のグループが手がけていた詐欺は、オレオレ詐欺に留まらず、ワンクリック詐欺、未公開株詐欺、社債詐欺、イラク・ディナール詐欺など、多岐にわたっていた。

ところが、この男は詐欺にかかわる事件で前科も逮捕歴もないという。各種詐欺のピラミッド組織の頂点に君臨していたにもかかわらず、警察はこの男に迫ることができず、男の配下を「オレオレ詐欺のキング」として逮捕するにとどまったのだ。

【目次】

第1章 「伝説の詐欺帝王」前史
第2章 五菱会のヤミ金が原点
第3章 システム詐欺とは何か
第4章 ヤミ金からシステム詐欺に
第5章 鉄壁の経営とトラブル
第6章 システム詐欺と暴力団
第7章 思いついたイラク・ディナール詐欺
終章 システム詐欺がなくなる日


本書の主人公である本籘彰(仮名)は、東京6大学の大学1年生のときには、全国規模の学生イベントを仕切っていたという。現在も続いている大学生向けの「キャンパスサミット」と高校生向けの「D-1ドリーム・プロジェクト」は、彼が学生時代に創設したイベントだ。

麻布のディスコ「マハラジャ」や六本木のディスコ「ヴェルファーレ」を貸し切る巨大イベントを開催する抜群の集客力を誇り、日産自動車や化粧品会社の協賛を得て、エイベックスからはCDを発売したという。

本藤は、大学を卒業すると、イベントを仕掛けていたコネで大手広告代理店に就職する。就職後も、イベントを仕掛ける若者のケツモチ(ディスコ借り上げの仲介業)はやっていたという。

しかし本籘は、スーパーフリーク事件(早大のサークルによる複数の強姦事件)で大手広告代理店に居られなくなった。スーフリにクラブなどを仲介するケツモチだったため、事件への関与を疑われたからだ。

2003年8月、「ヤミ金の帝王」と呼ばれた山口組系五菱会幹部の幹部が逮捕された。ヤミ金は、五菱会の会長高木康男が、倒産整理屋時代に得た知識で作り出した。五菱会系ヤミ金業者は、全国1000店舗にまで膨れ上がり、数千億円の収益を上げたが、次々と摘発されることになった。

そこで本藤は、五菱会の摘発を受けて、ヤミ金業に進出した。勢いのなくなった五菱会のシマをぶんどっても、学生時代から多くの暴力団との付き合いがあったため、難なく乗っ取りに成功したという。

本藤のヤミ金は、300店舗を数え、従業員1300人に肥大した。新入りのヒラの「店員」で月給40万円、店員の上の店長補佐の「番頭」で200万〜300万円、「店長」が700万〜800万円、その上の「統括」で1000万円、その上の「総括」で5000万円、さらに上の「社長」が1億5000万〜2億円、トップ3人からなる「幹部」で2億〜3億円、本藤本人が最低月給2億〜3億円だったという。

本藤は各店の貸付額や回収率に関する情報を共有し、店舗間の競争を煽った。そうした中で、店長たちがオレオレ詐欺を始めたという。ヤミ金店長たちが、回収率アップのために金を貸し付けていないところから引っ張るようになったのだ。

ヤミ金の店舗には、稼働する人員・携帯電話・名簿・架空口座とオレオレ詐欺を実行する道具は揃っていた。そして、オレオレ詐欺だけでなく架空請求詐欺や融資保証金詐欺、パチンコ攻略法詐欺、競馬必勝法詐欺などの特殊詐欺を手掛けるようになっていった。

やがて、本藤のグループはこうした詐欺に特化するグループと、従来通りヤミ金を続けるグループが7対3の割合で、詐欺グループが増えていった。しかし、本藤はヤミ金を止めなかった。「詐欺は当たり外れの波が大きいから、グループの経済を安定させるためにはヤミ金が欠かせない」からだった。

ヤミ金は易しく、誰にでもできる。ヤミ金がやれないようだと、他に何をやっても物にならない。(p.113)

ヤミ金を社員教育の場としても利用していたのだ。

オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺などの「特殊詐欺」は、ほとんどが暴力団ではなく半グレ集団によって行われているという。半グレ集団は関東連合や怒羅権などの元暴走族で知られているが、一般人がまともな会社のつもりで就職したら、ヤミ金やパチンコ攻略法詐欺の会社で心ならずも半グレ集団に迷い込む者も少なくないという。小さな悪事や犯罪の実行をためらわない人が半グレ集団に所属する。

世の中は食うか食われるか、小市民的な倫理道徳などクソ食らえ、と考える人々が増え、そういう層が加害グループに人材を供給している。(p.82)

半グレ集団は暴力団のように対外的に名や顔を広めないので、全国に半グレ集団がどのくらい存在するのか、警察も把握していないという。

そして、代表的なシノギが覚せい剤の密売である暴力団は退潮し、影響力は低下しているが、代表的シノギを特殊詐欺にしている半グレ集団は隆盛を極め、影響力が拡大している。

著者は警視庁が名づけた「特殊詐欺」を「システム詐欺」と呼び替えるべきだという。かつて、詐欺は個人犯罪だった。結婚詐欺が典型的で名人芸を必要とする個人技が多かった。しかし特殊詐欺は、集団・組織の犯罪であり、集団がシステマチックに動くことで成立する詐欺だからだ。

本藤のグループにいた男たちが独立し、次々に逮捕される事件が起こった。しかし、詐欺が発覚したのではなく、仲間割れによる殺人事件や覚せい剤所持が発端だった。しかし本藤は、いっさいの薬物に手を出さず、前夜どんなに飲んでも朝8時半には出社して仕事をこなしていた。

オレオレ詐欺や架空請求詐欺は配下が考えた詐欺だが、本藤本人が始めた詐欺が、ディナール紙幣詐欺だ。これは、現在も消費庁が注意喚起をしている詐欺だ。

2006年ころ、本藤はマネーロンダリングの方法を探るために海外旅行を繰り返し、旅先のドバイで、イラクのディナール紙幣を知ったという。イギリスで印刷された立派な紙幣で、最高の額面2万5000ディナールは日本円で2000円ほどの価値だった。1970年代には1ディナールは3.3ドルだったのが、1ドル=100ディナールまで下落していたのだ。

本藤はイラク戦争が終了し、米軍が撤退すればイラク経済が復興し、1ディナール=3.3ドルの時代に戻るかもしれないと考えた。そうなると2万5000ディナール札1枚は850万円になる。そこで、欲深い小金持ちに「絶対に儲かる」と言って、日本円には両替できないディナール紙幣を売ることにした。本藤は、2010年までにディナール詐欺を手がけ、10億円分のディナール紙幣を交換したという。

人はなぜ詐欺にあうのか。簡単にお金を増やそうとするからだ。その欲望にうまくつけ込むのが詐欺師だ。

しかも、詐欺師は一度詐欺にひっかかった人を2度3度と引っ掛ける。これを「かぶせ」といって詐欺の原則らしい。被害者はそれまでに受けた損を新たな儲け話で取り戻そうとするからだ。

騙されるヤツは何度でも騙されるし、なによりカネがある。300万円振り込むということは3000万円は貯金があるということです。(p.177)

「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれた本藤が足を洗ったのは、暴力団に貸した金の返済をめぐって足首を拳銃で撃たれ、何度も入退院を繰り返したために、配下への統制が効かなくなったことが原因らしい。

詐欺師の多くは逮捕によって引退することになる。しかし、ヤミ金と詐欺で数百億円を手にしたにもかかわらず、大学時代に巨大イベントを仕掛け、大手広告代理店に就職した抜群の頭脳を持つ本藤を警察は逮捕できなかったのだ。



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