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昼食難民の新書生活

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『愚か者、中国をゆく』星野博美(光文社新書)

愚か者、中国を行く


『愚か者、中国をゆく』星野博美(光文社新書)

この本は紀行文である。それも21年も前の旅である。

新書というのは「何でもあり」の書誌形式なんだなあとつくづく感じさせられる。もっとも、各出版社から最近になって刊行されている新書からは紀行文は想像しにくかったが、光文社という出版社は何十年も前からカッパブックスという新書のシリーズで、小説からノンフィクションまで「何でもあり」を実現していた。

著者は、香港への語学留学の終了記念にアメリカ人のマイケルと1987年5月から1か月間かけて、香港からウルムチまで列車で旅した。車中泊以外の宿泊はほとんどがドミトリー(ベッドがいくつも並ぶ大部屋)のようだが、恐らく単なる友人ではなかったのだろう。

しかし、寝台車の切符を手にいれるために何日も駅で並ぶような辛い旅を続けるうちに、二人の関係は仲の良い友人ですらなくなっていく。慣れない環境で理不尽で不合理な扱いをされ、平静さを保てないようになると、徐々に精神がささくれ立ってくる。同行者と些細なことで衝突したり、同行者がパニックに陥ってそれまで見せたことのない表情や言動を見て慌てることもある。

新婚旅行の起源は、新婚夫婦が1カ月間ほど部屋に籠もって精力剤である蜂蜜酒を一緒に作ることにあるという。だから、Honeymoon(蜜月)という。周囲から隔絶された環境で、お互いを深く見つめ合うとともに、子供を作るための時間だ。

新婚旅行から帰国した夫婦がすぐに別れてしまう「成田離婚」という現象がどれほどの頻度で発生しているのかはわからない。しかし、あまりに辛い旅の場合には、たいていは夫の方が相手を思いやる余裕をなくし、それを見せつけられた新妻が愛想を尽かしてしまうということなのだろう。新婚旅行でインドや中国などのシビアな国に行くのは考え物だ。

帯(腰巻き)に「ドストエフスキーの、ばか」と記されているが、騙されてはいけない。ドストエフスキーが著者の人生に大きな影響を与えるわけではない。同行したマイケルが旅の途中から著者を無視するかのようにドストエフスキーの『idiot』を一人で読み耽るようになる。著者は、『idiot』を「愚か者」と反射的に翻訳してしまったために、それが『白痴』だと気づくのは旅も終わりかけたころになってしまう。二人の仲を裂いた「ドストエフスキーの、ばか」であり、二人の愚か者が中国を旅するのだ。

著者が中国を東の端から西の端まで旅した1987年の2年後、北京では天安門事件が発生する。学生たちの求めた民主化は否定され、その代わりに改革開放が強化されて経済の自由化は止まること知らないスピードで加速し、持てる者と持たざる者の格差は恐ろしいまでに拡大した。

天安門事件から19年2か月後の2008年8月に北京オリンピックが開催される。日本も1945年8月の敗戦から19年2か月後に東京オリンピックを開催している。日本にとって敗戦が価値観の大転換を迫り、のちに高度経済成長を遂げることになったように、天安門事件は中国人が政治的自由を捨てて、金儲けに走る契機となったのではないかと著者は言う。確かに資本主義社会となったかように見えて、中国はまだまだ民主化されていないし、国民の意識はまだまだ近代化されていないのである。

ところで、私がよく出掛けていた東南アジアでは、一人旅の日本人バックパッカーを見かけることが少なくなかった。男性だけでなく、女性の一人旅もいる。しかし、日本人以外で一人旅をしている外国人はとても珍しい。そのわずかな特例は、他人と接するのがよほど苦手な内気なヤツか極端な人嫌い、あるいはよほどの変人のようだった。

「日本人はどうして一人で旅をするんだ」と尋ねられたことが何度もある。「寂しくないのか? 一人で楽しいのか? 誰かと一緒の方が楽しいのではないか?」というものだった。確かに、少なくとも一人で旅をするのは何かと不便だし、金銭的にも割高になることが少なくない。東南アジアのホテルは、日本と違って何人で宿泊しようが部屋代は一緒だからだし、一人では長距離をタクシーで移動するのはためらわれる。しかし、「寂しくないのか?」という彼らの疑問は見当違いだろう。

一人で旅をしている日本人は、一人になりたいから旅をしているのだ。なぜ日本人は一人になりたいのか。旅人・中田英寿とは違うと思うが、自分を見つめ直す時間がほしいのだろう。

パック旅行ではない手作りの旅では、行き先を決定して移動手段を確保し、宿泊先を決めて食事を取る、といった生きるためのあらゆることを自分一人で計画・決定・実行することに意味がある。いつもは時間がきたら起床して朝食を食べ、会社や学校に出掛けて、昼になったらランチを食べる。こうした一連の行動を意識せずに自動的に行っているが、海外では自分の身は自分で守らなければならない。そうした行為を一つひとつ自分で行うことで「生きている」と実感できるのである。だから、一人旅なのだろう。


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