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『うつ病の脳科学―精神科医療の未来を切り拓く』加藤忠史(幻冬舎新書 142)

うつ病の脳科学



『うつ病の脳科学―精神科医療の未来を切り拓く加藤忠史(幻冬舎新書 142)


わが国では年間3万人の自殺者を出しているが、少なくともその半数は直前にうつ状態だったとされる。うつ病はがんに次いで社会負担の大きな疾病なのである。なぜ1万人以上の日本人がうつ病あるいはうつ状態で自殺しなければならないのか。医療関係者は1万人以上の自殺者という数字に責任を感じていないのか。

問題は、うつ病は血液検査や画像診断で原因が診断できるようになっていないことにある。うつ病に関しては、まだまだ研究発展途上にあるからだ。著者は、患者の脳を分析することでうつ病の原因を探る可能性を探求している脳科学者。本書は、うつ病に関する最新の脳科学研究について、素人にもわかりやすくまとめられている。それでも、誠実な著者は「本書のエッセンスが凝縮された第一章の後は、難しい所はとばし、興味のあるところに目を通していただければと思う。」と書いている。

第一章では、最新の脳研究がどこまでうつ病の解明に近づいているかを紹介しつつ、老衰等で死亡したうつ病患者の脳を原因解明に役立てる「ブレインバンク」設立の重要性を訴えている。そのうえで「この本を書いた理由」として、「対がん10カ年計画」のような「対うつ研究開発10カ年計画」と、ブレインバンクのシステムがどうしても必要だと書いている。うつ病問題を解決するために、この2つを「社会全体で検討してもらいたい」と誠実かつ清廉に提案しているのだ。

第二章では、DSM導入による統計によって、うつ病とストレスの単純な因果律による原因づけが間違いであることが判明したことを明らかにしている。また、DSM導入によって2つの病名を並記するようになったことを機に、以前はパーソナリティ障害として治療していた患者をうつ病として抗うつ薬中心で治療する場合が増えてきたとする。

DSMを導入したことによる弊害についても書いている。本来は「仮の分類」だったはずの診断基準が、1994年のDSM-IV以降は、説明文の改訂(TR)が行われただけで、診断基準の改定はされずにいることだ。これには、抗うつ薬を販売している製薬メーカーにとって都合が良かったからだとしている。さまざまな症状の患者を大うつ病と診断すれば、抗うつ薬をたくさん販売することができるからだ。

さらに、著者自らが診断した2人の患者について書いている。1人はDSMによってどんな医療機関でもメランコリー型うつ病と診断されるような患者。2人目は「誤診」の例である。当初は、「大うつ病、反復性、メランコリー型」と診断して三環系抗うつ薬を処方したが6週目からは甲状腺ホルモン薬(チラージン)に変更など、なかなか診断が定まらなかった例である。うつ病の診断が容易ではないのは、検査方法が確立されていないためである。

2004年にFDAがSSRIに関して「抗うつ薬により悪化する例」としてアクティベーションシンドローム(賦活症候群)を引き起こす可能性があると発表したことに疑問を呈している。アクティベーションシンドロームはSSRIよりも、古いタイプの抗うつ薬である三環系抗うつ薬に多く見られるからだ。また、大うつ病患者の中に潜在的に存在する双極性障害の患者に対して、SSRIは躁転を引き起こす可能性がより低いため、うつ病患者へに対する処方薬としてはSSRIを最初に選択するべきだとしている。SSRIは、三環系抗うつ薬よりも副作用が少ないからだ。うつ病治療は、治療のために服用した薬で逆に悪化させてしまう段階を踏まなければ診断できないのが現状だ。そのため、著者は「うつ病患者さんの中に少なからず存在する潜在的な双極性障害の人を事前に診断できるような方法を、研究・開発しなければならない」としている。

「第三章 脳科学の到達点」では、最新の脳科学研究の成果を明らかにしている。10年ほど前までは「成人の脳細胞は減少するが、決して増えることはない」と教科書に書かれていたものだ。この常識は、1998年に人の脳でも新たに神経細胞が作られていることが確かめられてあっさり否定されることになった。しかも、ごくわずかしかない新生神経細胞が「記憶」や「学習」に関係しているのではないかと見られているのだ。

第四章から第七章までは、本書の主題であるうつ病に関する最新の脳科学が詳細に解説されている。

まず、DSMのような患者の説明に因らずに、うつ病を物質的に検査する方法はあるか。一時期、HPA系(視床下部-下垂体-副腎皮質系)の負のフィードバックループ機能を調べるDST(デキサメサゾン抑制試験)が有効かとされた。HPA系は、ストレスに対して身体を適応させるホルモンであるコルチゾールを産生させる働きをしているためだ。ところが、認知症や節食障害、統合失調症の患者にも、DSTの非抑制所見が見られたため、検査法として使われなくなったという。ただし、メランコリー型うつ病ではDSTで非抑制パターンの異常が見られ、非定型うつ病ではDSTの過抑制パターンが見られる場合があるので、うつ病のサブタイプ分類に役立つ可能性があるとしている。

第八章と第九章では、日本におけるうつ病と脳の研究の現状が書かれている。

そして第十章で、日本ではうつ病患者の脳の病理研究がほとんど行われていない実態が明らかにされている。日本にはうつ病患者が天寿を全うした場合に病理研究用に脳を提供する献脳システムがないため、うつ病患者の脳にどんな形態的変化が起こっているか研究することができない状態にある。さらに、うつ病の原因を探ることもできず、診断もできない段階にあるのだ。だからこそ、著者は福島県だけに限られている精神疾患患者の献脳のシステムを全国に展開し、ブレインバンクの設立を提案しているのだ。


【2010.5.28追記】

2010年5月25日付『朝日新聞』に「脳バンク設立へ うつや認知症の研究拠点に」という記事が出ている。

 精神疾患の治療や研究をしている医師・研究者らでつくる日本生物学的精神医学会は、「脳バンク」を立ち上げる。亡くなった人の脳を提供してもらって凍結保存し、うつや統合失調症、パーキンソン病、認知症などの診断や治療の研究に役立てる。すでに取り組みを始めている福島県立医大を基盤にして、来年中にも全国10の大学や研究機関を拠点に、提供希望者の生前登録を始める予定だ。
 脳の病気は不明な点が多く、主に患者が訴える症状で診断されているのが現状だ。脳バンクが整えば、患者の生前の症状と脳の状態を照らし合わすことができ、原因の解明や治療法の開発につながることが期待される。
 脳バンクへの登録は、20歳以上なら誰でもできる。事前に、医師による診断と説明を受けたうえで、書面で本人と家族の同意の署名が必要になる。脳はホルマリンと凍結によって保存される。

本書の著者加藤忠史は、「脳バンク」設立委員会メンバーである。

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コメント

加藤「忠史」

ありがとうございます

> 加藤「忠史」
ご指摘ありがとうございます。訂正しておきます。

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