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『日本文化論のインチキ』小谷野敦(幻冬舎新書 165)

日本文化論のインチキ


『日本文化論のインチキ』小谷野敦(幻冬舎新書 165)

本書で展開されるのは「日本文化論」として書かれた本への批判である。

学生時代に読んで感心した本の多くもバッサリと批判されているが、小谷野自身も学生時代に読んで影響を受けた本もあったことを告白している。いわゆる名著だけでなく、一世を風靡したポストモダンやニューアカの論客たちはことごとく切り捨てられている。日本文化論を書いた人々が依拠したフロイトやユング、ラカンといった精神分析家たちはもとより、マックス・ウェーヴァーやヘーゲルにも容赦ない。

『日本文化論』は、(略)そういう、西洋に幻想を抱き、依然として西洋への憧れから抜け出せない人が、自国愛との板挟みにあって、縋る、というものではないかと私は疑っているのだ。(p.101)

これは、欧米に留学した日本人が言葉の壁や人種差別にあって絶望し、その反動で帰国後に極端なナショナリストになった数多くの「保守派」に共通する心情だろう。「日本文化論」を書いた人々の多くは、そうした人々だと著者は言う。

第四章では、「恋愛輸入品説」を言い出したドナルド・キーンや柄谷行人、柳父章、そして谷本奈穂らを激しく批判している。恋愛輸入品説というのは、12世紀に南フランスでトゥルバドゥールという吟遊詩人が現れて恋の歌を歌っときに「恋愛」が生まれ、明治期の日本に輸入された、というものである。『源氏物語』や『万葉集』以降の和歌集を持ち出すまでもなく、日本には古来から恋愛はあったし、もちろん有史以来どの地域でも恋愛はあったはずだ。なぜ、恋愛輸入品説のような珍説が受け入れられ、いまだに命脈を保っているのか。確かに「恋愛」という言葉は明治期に作られた翻訳語かもしれないが、言葉はなくても概念や事実は存在するし、「恋」や「愛」の感情は古くからあった。

第五章は、渡辺京二の『逝きし世の面影』批判である。「江戸幻想」と著者が切って捨てるこの本は確かに不思議な本である。ちょっと大きな書店に行くと、平凡社ライブラリー版で復刻して数年になるのにいまだに平積みとなっている。この本は、江戸時代から明治時代までに訪日した外国人が書いた書籍を元に、日本が近代化する中で失われた「文化」を描いている。

江戸時代はヨーロッパ的な専制体制ではなく、地域や民衆にある程度は民主的な自治が認められていた。あるいは、欧米人の多くは、日本の民衆がヨーロッパの民衆よりも幸福そうに見えた、と感じていたなどと書いている。江戸時代が厳格な身分社会で、武士の一部と豪商や豪農以外の大多数は凄惨な日常を送っていたことをなかったことにしたいようだ。幕末から明治を描くのに、外国人が書いた本というフィルターを通しては、実相は描けない。渡辺はなぜこんな不十分な資料選択をしたのか。著者の言う「江戸幻想」に浸るために不要な民衆誌は一顧だにしないということなのだろう。

「第六章 天皇制とラフカディ・ハーン」では、ハーン研究を詳細に紹介している。といっても、ハーンの日本文化論に対する批判ではなく、「ハーン研究」の日本文化論批判である。ハーンと対比されるのは、明治6年にお雇い外国人として東大で英文学を講義したチェンバレンである。著者は、ハーンの功績を評価していない。

そして、ハーンを礼賛する人々を激しく非難している。その対象は、東京大学名誉教授の比較文学者である平川祐弘である。ハーンを利用して、天皇制を神道に還元し、それが日本古来のものだと主張しているからだ。

続く終章では、平川をはじめとする天皇制を礼賛する人々への批判が展開される。西欧の帝国主義に習って明治期に作られた天皇制が、古くからの日本の伝統であるかのように日本文化論を語る人々への反論である。1980年代にブームとなった日本文化論は、単なる復古主義ではなく天皇制を強化するために行われた政治的なプロパガンダだったのである。


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