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『「七人の侍」と現代―黒澤明 再考』四方田犬彦(岩波新書 1255)

『七人の侍』と現代-黒澤明 再考


『「七人の侍」と現代―黒澤明 再考四方田犬彦(岩波新書 1255)

本書は、映画『七人の侍』に関して、映画史的文脈および映画製作当時の世界情勢といった歴史的位置づけ、登場人物の詳しい分析、といった多面的で詳細な分析を展開している。

『七人の侍』が黒澤明によって企画された1952年は、サンフランシスコ講和条約が発効し、冷戦構造の中で日本がアメリカの軍事基地化し始めた年である。公職追放令が廃止され、戦前から戦中にかけて〈軍事協力者〉とされた人々が、政財界に復帰し始めた時代でもある。この映画は、保守派からは再軍備のプロパガンダだとして歓迎されたという。敗戦からまだ7年しかたっておらず、シベリヤ抑留者の帰還はまだだったが、中国からの復員兵が帰り続けていた。

黒澤明の国際的な名声が高まったのは、1951年に『羅生門』がヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したことに始まるが、本書によればフランスの映画評論誌『カイエ・デュ・シネマ』による〈作家主義〉の影響らしい。ハリウッド映画に対抗して始められたヨーロッパの国際映画祭は、ヨーロッパ以外の国々からそれぞれ1人の映画監督だけを傑出した〈作家〉として選ぶ戦略を採っており、その1人として選ばれたことが〈世界のクロサワ〉となったとしている。『どですかでん』以降は海外資本に頼らなければならないほど国内の評価が低かったが、国際的な評価はどこまでも高まっていった。2010年、北野武がフランスの芸術文化勲章最高章「コマンドゥール」を受賞し話題となったが、北野映画の評価も国内ではそれほど高くはない。何しろ観客が入らないから。本書ではまったく触れていないが、北野武がフランスで高く評価されているのは、黒澤と同じ〈作家主義〉による過大評価なのだ、ということになれば理解しやすい。

登場人物の分析は、概ね映画を見た観客が感じた通りのものとなっている。志村喬演じる勘兵衛は歴戦の武者で冷静沈着な戦略家であり、勘兵衛に憧れる木村功の勝四郎は育ちが良いが「まだ子供」と言われる青年、稲葉義男の五郎兵衛は勘兵衛に似た戦略家、七郎次は勘兵衛から「古女房」と呼ばれる家臣、千秋実の平八は腕前は「中の下」と評されたが飄々としてグループの緩衝材的な存在、宮田精二の久蔵は「己をたたき上げる、ただそれだけに凝り固まった男」と評される剣客、そして三船敏郎の菊千代は百姓(農民)あがりの侍になろうとしている男。

著者が指摘しているのは、頭目の高木新平の顔だけがアップで撮影されているが、ほかの野伏せたちは顔のないゾンビとして描かれている点だ。これは、黒澤がジョン・フォードの西部劇をお手本としてこの映画を制作したため、西部劇のインディアンと同様に描かれたためである。『羅生門』では「真実」さえも当事者の立場によって異なることを明らかにした黒澤だったが、この映画では単純な勧善懲悪のストーリーを選択しているのだ。

読了後、『七人の侍』を改めて観たが、確かに野伏せはエイリアンやゾンビのように単なる敵役として描かれている。本書にも書かれているように最近の中世研究によって、戦国時代の武士は商人や農民あがりが少なくなかったし、合戦に敗れれば野伏せにもなった。映画に登場する三者はいつでも入れ替わる可能性があったのだ。そうした歴史認識の誤りはあったとしても、『七人の侍』が映画史に燦然と輝く娯楽大作であることは変わらない。

暴力に怯えるだけだった人々が別の暴力の協力を得て戦い勝利する、という単純な物語構造によって、原案料を払った『荒野の七人』をはじめとして〈ジャンル〉と呼んでよいほど多数の類似映画が作られていった。現在でも似たような政治状況に置かれているキューバやパレスチナで、『七人の侍』は同時代的な共感を得ているのはそのためなのである。

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