『フィンランド 豊かさのメソッド』堀内都喜子(集英社新書)
2008-08-24

『フィンランド 豊かさのメソッド』堀内都喜子(集英社新書)
著者がフィンランドで9番目の町であるユヴァスキュラの大学で、異文化コミュニケーションを学び、さらにフィンランドで働いた経験を元に書かれている。
フィンランドも1990年代に日本と同様のバブル経済を経験したにもかかわらず、数年で経済状況が改善されたという。政策の中心は大胆な改革とIT化だったらしいが、20%を超えた失業率を6%代まで減少させることに成功した。1980年代から、産業の柱が林業と農業中心から、世界シェア40%を誇る携帯電話などのハイテク産業へと大きくシフトしたことも、経済復興の一因である。
フィンランドは、世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表する国際経済競争力の順位では、2001年から2004年まで4年連続首位となった。さらにOECDが発表しているPISA(学習到達度調査)は日本や韓国、香港などの教育熱の高い国や欧米先進国を抑えて学力世界一を誇っている。
そのためフィンランドの教育制度は、世界中から注目されている。本書では、フィンランドが人材育成に注力しており、国民が「学ぶこと」に優しい国である仕組みの数々が紹介されている。例えば、大学の授業料は無料でさらに学生が自活できるだけの奨学金が返済不要で支給されたり、どんな年齢の人でも技術や知識を身につけるために学ぶ機会が与えられている。
フィンランドが豊かになった原因には、人口がわずか500万人で、人口とGDPが北海道とほぼ同じ規模である点があるだろう。大胆な政策の効果が表れやすい規模なのだ。2005年のフィンランドのGDPは22兆1000億円。これは日本の516兆2000億円には遠く及ばず、人口がほぼ同じの北海道の19兆7000億円よりもわずかに多い程度なのである。
ということは、フィンランドは財政破綻に近い状態にある北海道を復活させるためのモデルになる、といえるだろうか。
しかし、残念ながら本書からわかる「豊かさのメソッド」は、大きな痛みの伴う行政改革を実施したことと、人材育成のための優れた教育システムがあること程度である。社会保障制度が優れている点もいくつか挙げられているが、あまり貯金をしないフィンランド人たちが「豊かな老後」を送っている基盤の年金制度については全く触れられていない。著者がもう少し政治や経済に興味があったらと悔やまれる。だが、フィンランド人気質など、そこに生活した者だからこそ記述できるエピソードは満載だ。
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